ニュージーランドのスポーツ法
― スポーツ振興政策とヒラリーコミッション(3/3)―
金沢学院大学教授
根保 宣行
4.現行の事故補償制度における不服申し立て
ニュージーランドでは不法行為訴訟の廃止と、事故原因を問わない包括的な補償を内容とする事故補償制度によって、コモン・ロー諸国における損害賠償請求訴訟は発生しない。しかし、ACCの審査による補償決定に不服がある場合は、図1のような流れで不服申し立てができる。
それでは、ACCに対して再審請求が出された(図1(2)の段階)ネットボールでの事例を一つ挙げてみる。
2000年9月2日、Aはネットボールの試合中にボールを取ろうと腕を伸ばした際に被った右肩の脱臼に関して、その補償と治療費に対する請求を行った。2000年9月8日、ACCは、1998年法28項に規定されているように、肩の脱臼は不慮の事故によるものではないとして、この請求を却下した。この決定に対してAは再審を請求し、再審のための聴聞において、双方の意見は次のように分かれた。
(28項における事故の解釈):事故とは人体に力、または外部からの抵抗力が加わる
ことで、それは緩やかな過程のものではない。 |
(イ)A側を支持する主張:彼女はネットボールの試合中にボールに向かって突進し、肩を脱臼した。この出来事は事故である。というのも、それは通常ネットボールの試合中に肩を脱臼しない人たちには予期せぬことである。ボールに届こうとする力が肩の脱臼を招いたのである。A自身も、彼女が肩を脱臼したのは、試合中のボールを後ろに弾こうとした行為の最中であり、スポーツ事故は補償されるはずであると主張した。
(ロ)ACC側を支持する主張:Aによって提示された説明は、1998年法の28項に関する事故の定義には当てはまらない。事故で補償を受けるためには、外因的な力が関与していなければならない。そしてAとAに関連する力は内部から発生したものであり、それゆえAの脱臼は不慮の事故とは認められず、ACCによって補償されるものではない。
(ハ)判定:本件の争点は、脱臼した肩が1998年法に定義されているような事故の結果から生じたものかどうかということである。申し立てによると、本件は自然発生的な出来事ではないと主張されている。しかし、その反対、つまり外力が加わったことを示す情報はない。したがって本件は1998年法の28項によって、事故の結果から生じたものとは解釈されない。この判定により再審申請は却下された。しかし、Aは本件に関する費用を申請した。この申請は1999年事故保険(再審費用と上訴)規定の第3則に応じて、適切に提示されたものとみなされ、Aには再審聴聞への往復旅費として、5ドルの負担金を与えることとされた。
このようなシステムはコモン・ローの下の裁判と異なり、紛争解決の前提はACCとの話し合い協調の上に成り立っており、それでも不服な場合のみ、地区・地方裁判所への提訴となる。これらの裁判所も基本的にはACCの事例範囲の中から実情に応じた判決が出される。
参考文献
(1)根保宣行(1998)「ニュージーランドのスポーツ振興と事故防止におけるヒラリーコミッションの役割」、『金沢学院大学文学部紀要第3集』、金沢学院大学、pp.1-9。
(2)根保宣行(1997)「ニュージーランドにおけるスポーツ振興政策とスポーツ事故防止政策」、『日本スポーツ法学会年報4号』、早稲田大学出版、pp. 129-142。
(3)根保宣行(1995)「ニュージーランド事故補償法とスポーツ事故」、『日本スポーツ法学会年報第2号』、早稲田大学出版、pp. 102-108。
なお、再審に対する決定の詳細は、審査官Dave Walker氏から資料提供を受けた。 |