フランスにおけるスポーツ事故の
訴訟と判例の概況
= スポーツ保険との関係を中心として=
神戸大学 発達科学部 助教授
齋藤 健司
強制スポーツ保険とライセンス保険の形成
スポーツ活動中の事故の多発化に伴い、スポーツ活動を安全かつ円滑に行うためには、事故によって発生する損害に対して充分な補償を確保する必要がある。スポーツ保険は、このような事故補償対策として効果的な制度である。フランスの場合には強制的なスポーツ保険制度を設置することによって、公的なスポーツ事故補償対策が講じられているのである。初回はこのフランスの強制スポーツ保険制度とそれに関係するスポーツ事故訴訟について概説する。
フランスでは1962年にアマチュアスポーツ保険に関する行政命令によって強制的なスポーツ保険制度が導入された。スポーツ団体がスポーツ競技会に参加登録する場合には、そのスポーツ団体に属する指導管理者と競技会参加者は、行政が定める最低補償基準を満たした民事責任保険と傷害保険に事前に加入しなければならなくなったのである。
この強制スポーツ保険の導入に対応して多くのスポーツ団体が採用した措置が、いわゆるライセンス保険システムであった。スポーツ団体は、会員登録証(ライセンス)を発行する際に、登録料の中にスポーツ保険料を含めて徴収することを行い、スポーツ団体登録時にスポーツ保険への加入が自動的に行われるシステムを採用したのである。そして全国的なスポーツ連盟をはじめ多くのスポーツ団体が、このライセンス保険システムを導入した。しかし、このライセンス保険の慣例化が進むと、スポーツ団体の会員は、スポーツ団体が会員に代わって契約手続きをしたスポーツ保険の内容がどのようなものであるのかを十分に確認することなく登録を行うようになっていったのである。また、スポーツ団体側は、行政が定める最低補償基準でしかこのスポーツ保険契約を締結せず、補償内容を物価変動等に対応させて主体的に見直すことを行わなかったのである。そしてこのような問題状況の中で、次回紹介するような事件が生じ、裁判として争われることになったのである。
参考文献
(1) 齋藤健司、フランススポーツ基本法におけるスポーツ保険制度の形成、スポーツ産業学研究Vol.8, No.2, 1998, pp. 29-38.
(2) J.-C. Breillat, F. Lagarde, J.-P. Karaquillo, Code du sport, Dalloz, 2001.
(3) Cour d'appel de Versaille (1er CH.), 29 juin 1984, Jean-Pierre Lotz c. Federation
francaise des sports de glace (F.F.S.G.), Gazette du palais, 4 avril 1985, p.224.
(4) 齋藤健司、フランスにおけるスポーツ保険に関するスポーツ団体の法的義務について、日本スポーツ産業学会スポーツ法学専門分科会年報第2号、1997,
pp. 24-35.
<次回に続く>
次回は「フィギュアスケート選手アルディ衝突事件判決」について
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