権利の放棄( ウェイバー) を中心として(2)

第00013号
2002年10月17日 更新

近年のアメリカ合衆国における
スポーツ事故の訴訟と判例の概況
権利の放棄( ウェイバー) を中心として(2)

筑波大学体育科学系教授

諏訪 伸夫



今回は、ウェイバー(リリース)をめぐる代表的あるいは興味あるケースを幾つか紹介してみよう。

権利の放棄(ウェイバー)をめぐる事故判例
【有効とされたケース】
@「ジマーレンタルスキー受傷事件」(1980年判決)7)
レンタルスキーで負傷したジマーは、レンタルスキーショップに損害賠償の請求の訴えを起こしたところ、スキーのレンタル同意書にある免責条項が有効とされ、訴えは棄却された。

A「ウィリアムスロードレース重傷事件」(1981年判決)8)
ジョージア州のアトランタで行われた1万メートルのロードレース中の事件で、原告ウィリアムスは、高温・多湿に対する主催者の水分補給と医療施設の準備不足について訴えたが、原告が免責同意書の内容も十分理解して、参加費も払って署名していたため、裁判所は、危険の同意の法理等により、免責同意書は有効と判示し、訴えを棄却した。

B「シーンズ川下り溺死事件」(1990年判決)9)
1988年の夏、南カリフォルニアギャンブリングクラブのカードディーラーの一行は、アメリカン川ミドルフォークで3泊4日のイカダによる急流下りを行ったところ、最終日の川下りで28歳のエド・シーンズは、イカダから投げ出されて溺死してしまった。彼は、川下りを行う前に、一切の危険を受忍するという権利の放棄書に署名していた。一審、二審とも裁判所は、危険の引受を明示した同意書に有効な署名を
施したエド・シーンズに全面的な責任があるという判断を下した。

C「グローブスカーレース負傷事件」(1995年判決)10)
1992年の夏に、ゲーリー・グローブスは、参加費を支払い、免責同意書にも署名し、ファイヤーバード・レース場でのレースに参加中、衝突事故に巻き込まれ、車は炎上し、グローブス本人もひどいやけどの重傷を負ったため、ファイヤーバード・レース場に損害賠償を求めて訴えを起こしたが、裁判所の判断は、グローブスにより署名された免責同意書は、明確であり、公序良俗に違反するものでもなく有効であるというものだった。

【無効とされたケース】
@「ブラウンフィットネス・クラブ負傷事件」(1987年判決)11)
ペンシルバニア州のフィットネス・クラブ内で会員のブラウンが濡れた床にすべり負傷した事件で、ブラウンはクラブに対して損害賠償請求の訴えを起こした。クラブ側は、ブラウンがクラブ会員になるとき権
利の放棄確認書に署名しているので、ブラウンの傷害に対する責任は免除されている、と主張したが、裁判所は、クラブの過失ある行為に対する責任は免除しないと判示した。

A「サイアレックレンタルスキー受傷事件」(1990年判決)12)
サイアレックは、スキーで転倒した際、ビンディングが外れず負傷してしまったのは、フェアフィールド社の経営するスキー施設の社員がスキー板の選択とビンディングの取り付けに不注意があったためである
として、フェアフィールド社に損害賠償の訴えを起こした。サイアレックは、スキーをレンタルする際に、「ユーザーは使用中及び使用の結果被ったいかなる損害に際しても、会社及びその従業員が免責されることに同意する」という免責同意書に署名していた。第一審は、免責条項による被告フェアフィールド社の主張を認めたが、第二審は、契約を厳密に解釈すると被告側の不注意による免責は含まれないとして、原判決を撤回し、第一審裁判所に差し戻した。

B「ハイアットトライアスロン死亡事件」(1992年判決)13)
バージニア州のバークロフト湖で行われたトライアスロンの水泳種目で、飛び込んだ際、湖底の物体に頭をぶつけ、身体麻痺の重傷を負ってしまった事件で、原告のハイアットは、トライアスロン競技大会主催者に対して、損害賠償の訴えを起こした。なお、原告ハイアットは、トライアスロンに参加する際、権利放棄に関する契約書に署名していた。第一審は被告主催者の主張を認めたものの、第二審は、不注意な行動に対しての負傷の免責は、公序良俗(public policy)の原則に反するとして、第一審に差し戻した。

(注)
7) Zimmer v. Michell and Necc, 385 A.2d 437 (Pa.Super,1978), affirmed 416 A. 2d 1010 (Pa.1980).
8) Williams v. Cox Enterprises, Inc., (1981) 159 Ga.App.333, 283 S. E. 2d 367.
9) Saenz v. Whitewater Voyages. Inc.,276 Cal. Rptr.672 (Ct. Appcals 1990).
10)Groves v. Firesbird Raceway, Inc., (1995) United States Court of Appeals for Ninth Circut (1995 U.S.App. LEXIS 28191).
11)Brown v. Raquctball Centers Inc., 534 A.2d 842 (Pa.Sup.Ct.1987).
12)Sirek v. Fairfield Inc. 800 P.2d 1291 (Ariz. App.1990).
13)Hiett v. Lake Barcroft Community Association, Inc. 418 S.E. 2d 894 (Va.1992).
<参考> ウェイバー・フォームについては、日本スポーツ法学会年報第2号(1995年)、鈴木モモ子論文(p.157〜168)、及び第5号(1998年)井上洋一論文(p.68〜74)が詳しい。


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