近年のアメリカ合衆国におけるスポーツ事故の訴訟と判例の概況
= 不可抗力等を中心として(2) =
諏訪 伸夫
筑波大学体育科学系教授
<前回からの続き>
次に、レクリェーションやスポーツ事故のケースで不可抗力をめぐる判例には、実に様々な多数の判例があるが、それらの中、以下には、「雷」をめぐる事故判例に的を絞り、それらの中の典型的な幾つかのケースについてみてみよう。
不可抗力―とりわけ「雷」をめぐる事故判例
「雷」をめぐる事故の中でも、約10年前とやや古いデータであるが、北アメリカで雷に打たれて死亡したゴルファーは、雷に打たれて死亡した人全体の約4%を占めていたという。6)なお、北アメリカ全体では1900万人が、ゴルフを1年に少なくとも2回プレーを楽しみ、毎年、その中の0.12%の人が病院の緊急治療センターで治療を受けていたという。7)
次には「雷」をめぐる事故判例の中、不可抗力として認められた代表的なケース(被告無罪)をやや詳しくみてみよう。
「ゴルフプレイ中落雷死亡事件」(1991年判決)の概要8)
テネシー州キングスポートにある教会のオルガン奏者であり、聖歌隊の指揮者であったフィリップ・ヘイムズPhillip Hames(事故当時36歳)は、1986年の秋からゴルフを楽しむようになり、事故にあう1987年6月3日まで少なくとも20回はプレーをし、その大半は当該事故のあったテネシー州立公園のゴルフ場で行っていた。事故当日の午後1時45分頃、ヘイムズはゴルフ仲間の2人とプレーを始めた。雲が空を覆う天気で、プレーを始めておよそ25分経った頃、雷を伴う嵐になり、午後2時30分頃までプレーをしていたが2本の樹の下に避難したときパーティは落雷事故にあい、ヘイムズは雷の電気による心臓停止により死亡した。なお、コースには避雷のためのいわゆる避難施設(shelter)はなかった。そこで故ヘイムズの妻レベッカ(Rebecca
Hames)は、夫が事故にあったのは、アメリカゴルフ協会規則(United States Golf Association's rules)にも定められているような落雷防止用の避難施設及び雷警告標示を当該ゴルフ場は備えていなかったためである、としてテネシー州を相手として賠償訴訟を起こした。第一審裁判所(trialcourt)は、嵐用の避難施設や警告標示に関する産業基準はないし、また常識的に、雷は危険である、として原告レベッカの訴えを斥けた。
レベッカはこれに対して、控訴し、上訴裁判所(appeals court)は、もし避難施設が備えられていたら事故は起こらなかったであろうとして、被告テネシー州に30万ドルの支払いを命じた。テネシー州はこの判決を不服として州最高裁判所(state
supreme court)に上訴した。
同最高裁判所は、事故の起きた状況は、まさに不可抗力であるとして上訴裁判所に差し戻した。すなわち同最高裁判所は、ほとんどの成人であれば雷を伴う嵐の中でのゴルフのプレイは明白に危険であると認識し、しかもほんの2分弱で故ヘイムズとその仲間はクラブハウスのような比較的に安全な場所に移動することができたからである、との判断を示した。
このケースと対照的な事例として、「市立公園ピクニックの際金属製避難施設に避難中家族落雷死亡受傷事件」(1984年)がある。これは、原告ロザンナ ビア(Rosanna
Bier)は、家族と一緒にオハイオ州ニューフィラデルフィア市によって運営されている公園に、1980年8月10日、ピクニックに行き、避難施設を借り、折しも雷雨が近付いてきたので、避難施設に避難していたところ、避難施設の金属製の屋根に落雷がありビア一家は死んだり受傷してしまったという事件である。ニューフィラデルフィア市側は、本件事故は不可抗力であると主張した。
一審、二審とも市側の主張通り不可抗力による事故ということで被告無罪であったが、州最高裁判所は、それら一審及び二審の判決について、ビアの主張する市側の過失を検討するよう第一審裁判所に差し戻した。9)
(注)
6),7)Heward Grafftey,"Safety Sense at Play",Safety Sense Enterprcses,Inc.,1991,p.132.
8)Hames v.State of Tenessee,808 S.W.2d 41(Tcn.1991)
9)Bier v.City New York Philadclphia.11 Ohio St.3d.134.464 N.E.2d.147 (1984).Supreme
Court of Ohio,June 13 1984.
<参考> 【雷に関係する事故事例】(いずれも被告無罪)
(1)「屋外バスケットボール観戦中雷雨避難の際枯木落下受傷事件」(1992年判決)
1988年7月10日、ミシガン州で屋外バスケットボールを観戦中、落雷が直接の原因ではないが雷を伴う嵐を避けようと走って避難施設に行こうとした際に枯木が落下し、重傷を負った事件で、原告が重傷の責任を問うたのに対し、被告会社は、雷を伴う嵐が近づく警告をする義務はないという裁判所の判断であった。
Dykema v.Gus Macker Enterprcises,Inc.,196 Mich.App.6;492 N.Y.2d(1992),Court
of Appcals of Michigan September 8.1992.
(2)「セコイア国立公園の岩上の観光者落雷受傷事件」(1986年判決)
1975年8月20日、原告であるE.Lシーラー(Edie Lee Shieler)は、カリフォルニア州のセコイア国立公園の岩(Moro Rock)の上に立っていたとき落雷にあい受傷した。訴訟を起こした理由は、原告シーラーは事件のとき落雷の危険について何らの警告も受けておらず、国に過失責任ありとして、国を相手に損害賠償訴訟を起こした。連邦地方裁判所(federal
district court)は、セコイア国立公園における警告等は裁量機能(discretionary function)ということから原告の訴えを却下した。
Shisler v. United States, 642 F. Supp.1310(E.D.Cal) U. S. District Court,Eastern
District Court, Eastern District Calif.August 4.1986.
( 3 ) 「ビーチで遊戯中少年落雷死亡事件」(1991年判決)
1984年7月3日、ニューヨーク州のニューウィンザータウンの湖で、雷雨の中で遊んでいた16歳の少年に落雷し、少年は意識を失って地面に倒れた事件であり、原告の少年の父親がニューウィンザータウンの監督責任を問う裁判を起こした。一審、二審ともニューウィンザータウン側には、全般的な監督で十分であり、少年達個々人に対して雨や雷の危険性を警告し避難施設に入るようにいちいち注意する義務はないと判示した。
Mcauliffe v. Town of New Windsor, 577N. Y. S. 2d 942(A.D.1991)., Supreme Court
of New York, Appellate Division, Third Department,December 31.1991.
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