不可抗力等を中心として(1)

第00010号
2002年9月27日 更新

近年のアメリカ合衆国におけるスポーツ事故の訴訟と判例の概況
= 不可抗力等を中心として(1)=

諏訪 伸夫

筑波大学体育科学系教授

スポーツ事故発生の原因と責任及び不可抗力について

スポーツ活動中に発生する事故原因として、種々様々なものが考えられるが、大まかには天変地異のような偶発的で止むを得ない事情等で発生したものとあらかじめ防止策や安全管理を徹底していれば予防や回避が可能であると考えられるものに分けられる。前者はいわゆる不可抗力の原因で起こるものであり、今回取り扱う主題である。後者については、色々な考え方があるが、例えば、事故発生の原因は、
(1)主体的条件(技術的要因、身体・体力的要因、心理・精神的要因等)によるもの、
(2)他律的条件(自己以外のスポーツ活動参加者の衝突や妨害等)によるもの、及び、
(3)環境的条件(自然的・人工的要因―例えば、天候や場所、施設・設備・用具、季節や時間等)によるもの
に大別でき、スポーツ事故はこれらの原因がそれぞれ単独の場合もあれば、幾つか複合して発生している。わが国の場合であるが、スポーツ活動中の事故発生の原因として、身体の疲労や不調、設備・器具の欠陥及び不可抗力や突発事故等が一般的に共通してみられ、その中でも前記の(2)の主体的条件の技術的要因が最も多く、次いで(1)の不可抗力によるものが多くみられるという(日本体力医学会調べ)。

この不可抗力とは、英語でAct of God といわれ、英米法辞典によれば、「神の行為;自然現象」で「地震、落雷、竜巻、自然死などのように、相当の注意力を払っても予知、予防できないし自然力の発現による直接の結果、人為の加わらない、人為によって支配できない自然力による偶発的事故」のことで、「不法行為法では、過失に基づく賠償請求訴訟において、自然現象が被害の唯一あるいは近接の原因であったことが立証されれば、被告に責任なしとされる。1)

アメリカにおいてスポーツ事故発生の際の損害賠償訴訟で圧倒的に多いのが、不法行為責任( t o r t s ) の中の過失( ネグリジェンス、negligence)を問う場合であり、被害者(原告)が加害者(被告)の過失を問おうとする場合に用件としては、通常、実際に損害(damages)があって、それが違法(breach)なものであり、事故と被害の間に因果関係(proximate cause)があり、さらには予測可能(foreseeability)であることなどがあげられる。

例えば、晴れた空の突然の落雷により遊泳者が死亡したり、重傷を負ったりした場合は、まさに不可抗力の典型であって、このような事故は防ぎようがなく、何人にも責任がないが、2)黒雲が観察され疾風などが吹きはじめてきているのに、プールで遊泳中の人達全員にあがるように指示しなかったため、遊泳者が雷に打たれて、死んでしまうような事態にたち至ったときには、プールの救護人(lifeguard)はその死の過失責任が問われることがある。

なぜならば、そのような事故が発生する可能性が予測され得るからであり、さらに注意深い行動がとられているならば、死亡事件が発生しなかったであろうと思われる状況において起こっているからで
ある。3)要するに、事故原因としての天変地異に代表される不可抗力については、レクリェーションやスポーツ傷害訴訟で過失に対する被告側(defendants)の強力な抗弁(defenses)の一つとされているものの、法的抗弁としては、不可抗力それ自体は、絶対的な価値を有するものではなく―つまり、自然現象等の不可抗力によって起きた事故だから無条件に何人も責任がないというものではなく、真に問題なのは、事故が予測可能であり、回避し得るものなのか否かが重要なポイントといえる。4)

例えば、救護人(lifegurd)の監視台上の傘がしっかりと留められていなかったため、風で飛ばされて、その傘の骨が14歳の少年のこめかみに突き刺さり、少年が死んでしまった事故では、原告側は被告
の傘の設置管理責任を問うたのに対し、被告は不可抗力を主張したケース及び突風でカントリークラブのテーブル上の傘が飛ばされて、近くのプールで泳いでいた人に傷害を負わせてしまったケースでは、過去にしばしば傘が風により飛ばされることがあったので、事故は容易に予測され得た、ということで裁判所は両ケースとも加害者(被告側)に責任があると判断した。5)

<次回に続く>
次回は関連事故判例

(注)
1)田中英夫編集代表「英米法辞典」東京大学出版会、1993年、p.17.なお、Act of God(不可抗力)と同じ意味に使われる言葉に、ラテン語のBis Major(ビスメジャー)があるが、これは同辞典によれば、「事実上抗拒不可能の力」で「予見または統制不可能の出来事」をいい、「ある種の訴訟においてdefense(抗弁)となりうる」もので「暴風雨や地震のような自然現象をさすことが多いが、戦時中のような政府の干渉のような人為的出来事をも含む広い概念として使われることもある。pp.898-899.
なお、抗弁については、本誌拙稿4月号(p.28)や8月号(p.28)を参照。
2)人為的な不可抗力の代表的なケースとしては、例えば、ミネソタ州の子どものハローウィーンのパレードを見物していた人達に、心臓発作に襲われた運転手の車が突っ込んで多数の重軽傷者を出した事件では、予測や回避は不可能であり、したがって裁判所は、何人も責任が無いと判示した「ルーク対アノカ事件」(Luke v.Anoka,277Minn. 1,151 N. W. 2d 429<1967>)があげられる。
3)このようなケースの具体的例については、例えば、@ Pleasure Beach Park Co.v.Bridgeport Dredgc & DockCo.,165A691,116 Conn.496." Caron v.Guiliano,211A 2d 705,26 Conn.
Sup 44.ACleaveland v.Walker,52 Ohio App.477,6 Ohio Op.138,3N.E. 2d 990 (1936) などを参照。
4)N.J.Dougherty,D.Auxter,A.S. goldberger,G.S.Heinzmann,"SPORT,PHYSICAL ACTIVITY, AND THE LAW",Human Kinetics Publishcrs,1994,p.241.及びチャールズA。ビ
ュッチャー、伊藤堯訳「保健・体育プログラムの管理」(第5版)、道和書院、昭和50年、p351.
5)前者のケース;Brewer v. U.S.,108 F. Supp.899(1952)、後者のケース;Blue v. St.Clair CountryClub,7」,2d 31(1955).


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