近年のアメリカ合衆国におけるスポーツ事故の訴訟と判例の概況
ボランティアの責任と慈善免責を中心として(3)
=ボランティアの法的責任について=
諏訪 伸夫
筑波大学体育科学系教授
<前回からの続き>
ボランティアの法的責任について
ボランティア活動の振興という事実面とその法制面についてみてみると、近年極めて注目すべき事柄が進行中である。すなわち、上述のようにアメリカの裁判所の判例の大勢は、慈善免責説を廃止する方向にあるものの、それがまったく消え去ったわけではない。このような状況の中で、1980年代の半ばに至り、いわゆる訴訟社会の荒波に翻弄され、ボランティア活動の衰微傾向に歯止めをかけ、テコ入れを図ろうとして、州のほぼ半分がボランティア活動に携わる個人及び組織・団体等に限定的免責limited
immunity を認める法制化の動きがあらわれ、現在、デラウェア州、ジョージア州、イリノイ
州、ルイジアナ州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ノースダコタ州、ペンシルバニア州、ロードアイランド州の10州がスポーツに関係する免責法を成立させている。11)
もっともこのような免責も、ボランティアがその役割・機能を果たす際に、善意による活動が前提とされ、故意や悪意による違法行為及び他人の安全を脅かす無謀な行為や重大な過失については適応されない。
また、自動車類の運転や選手・参加者の輸送などについては免責の例外とされている。
なお、ボランティアは、個人的にボランティア自身の過失については責任を負うが、ボランティアが活動している組織や機関は、通常、特にいわゆる損害賠償金の支払いに際して、ボランティアの共同の被告として、いわゆる「ディープポケット」の被告とみなされている。
次にボランティアの自己責任と非常勤のボランティアコーチの損害賠償権にかかわる判例をみて本稿を結ぼうと思う。
前者のケースとして、原告はボランティアのキャンプ指導者で、事件が起きた当時、原告はキャンパーとカウンセラーによるプールでの水球の監視をしていたが、ゲームが白熱化し、乱暴なプレーが続出したためプールに直接入って注意を与えていたところ、プレー中の1人のプレーヤーの腕が原告の目に当たり網膜剥離の傷害を負った。そこで、原告は「水辺活動を監督する資格のある職員を適切な人数配置することに誤りがあった」としてキャンプ主催者に対する損害賠償請求の訴えを起こした。
これに対して、裁判所は原告に対してプールでの水球に関する危険性を知っていたことと自らの意志でプールに入ったことなどを理由として裁判所はキャンプ主催者には責任なしと判断した(1976年判決)。12)
後者のケースとして、高校の女子ダイビングのボランティアコーチであるリチャード・ザーガーは、4人の生徒を乗せて、水泳競技大会参加のため水泳コーチの自動車を運転していたところ、事故に巻き込まれて女生徒1人が死亡してしまった。そこで彼女の母が学区、水泳コーチ及びザーガーを相手として損害賠償請求の訴えを起こした。これに対して学校側は、ザーガーに対する何らの法的コントロール権を有していないので彼は雇用者ではないと主張した。上訴審まで争われたが、結局、ザーガーは学区のために行動している際の事故に遭遇したものであり、ボランティアであるがゆえに雇用者として位置づけられ、従って、彼には、事故から生じた損害に対する学区による賠償金支払いの権利資格を有すると判示した(1994年判決)。13)
注)
11)B.van der Smissen,前掲書,pp.116-118.
12)Jeffords v. Atlanta Presbytery, Inc.,140 Ga.App. 456, 231
S.E. 2d 355,(1976)
13)Murray v. Zagar, 642 A.2d 575, (Pa.1994)
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