現代社会とボランティア

第00007号
2002年9月5日 更新

近年のアメリカ合衆国におけるスポーツ事故の訴訟と判例の概況
ボランティアの責任と慈善免責を中心として

=現代社会とボランティア=

諏訪 伸夫

筑波大学体育科学系教授

現代社会とボランティア

ボランティアについては、既に約20年も前に経済企画庁は、「21世紀はボランティアリズムによって開かれ、ボランティア活動は、崩れた共同社会を再構築し、人間に根ざした暖かい社会を作る『カギ』であり、いわゆる欧米先進国ではすでに重要な役割を果たしているが、わが国においても、失われた社会的連帯などをボランティア活動によっておぎないつつある時代が到来しつつある。1)」と述べている。

経済企画庁の説明をまつまでもなく、欧米では市民の力を生かすボランティア活動は、行政や企業の活動と拮抗する第三の社会システムとなっており、実際、アメリカでは国民の48%が何らかのボランティア活動に参加し、1週間に平均4.2時間をあて、これを労働時間に換算すると1年でおよそ195億時間となり、これはアメリカのフルタイム労働者の880万人分の労働力に相当するという。2)アメリカのボランティア社会は種々な制度や組織及びネットワークなどによって支えられているが、例えば、ボランティア団体は約80万以上あるといわれ、また学校教育に各種のボランティア活動が盛んに取り入れられており、具体例としてメリーランド州では、1985年からの試行錯誤の後、1992年6月に、州教育委員会は全米で初めて「サービス・ラーニング(社会奉仕活動)」(Service Learning)を公立高校の必修科目として法令で定めている。3)

現在のアメリカ経済の好況の下においても、全国的にみられる合理化や効率化推進策は、予算の削減や会社等組織の縮減化現象をもたらし、生活の質の豊かさと密接な関連を有するスポーツやレクリェーションプログラムの存否に極めて重大な影響を与えている。そのいわば社会的反作用として、連邦政府から地方政府まで、さらには会社や非営利団体に至るまで、次第にボランティアにそれらのプログラムの支援を期待するようになってきている。4)言いかえれば今日ほどいわゆるアメリカの伝統的博愛(American tradition of philanthropy)が試されているときはないといえよう。

いうまでもなく、社会一般の活動と同様に、ボランティア活動もそれが盛んになればなるほどトラブルや事故も惹起されるようになることは容易に推測されるが、ボランティア活動に伴って発生する事故についての全米的な公式統計はない。ボランティアは簡潔に、ガソリン代や宿泊代及び食事代などのいわゆる実費以外は、無報酬(without compensation)で善意の奉仕活動(benefactory service)を行う者と定義されている。5)

次回はこのようなボランティアの無報酬かつ善意の行為が法的効果の対象とされ、法的責任についてどのような判断が下されてきたのかを述べてみよう。

(注)
1)ボランティアという言葉は、近年よく見たり、聞いたりするようになったが、「テレビ」や「ラジオ」が日本語訳された漢字表記による言葉がないように、このボランティアという言葉も日本語訳された漢字表記がなく、外来語表記のカタカナで「ボランティア」として使われていることとこの「ボランティア」という言葉を漢字で適正に訳せないので、本稿においてもそのまま「ボランティア」を使用している。
経済企画庁国民生活局編「ボランティア活動の実態」大蔵省印刷局、1981年、p.1.
2)NHK取材班編「ボランティアが開く共生への扉」日本放送出版協会、1995年、pp.130-131.
3)NHK取材班編、前掲書、pp.141-144.田中英夫編集代表「英米法辞典」東京大学出版会、1993年、p.386 及びp.340.
4),5)Helen Belden, "Volunteers, Sports and the Courts", Journal of Legal Aspects of Sport, Vol.1, No.1, 1991,pp.12-13.

<次回に続く>


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