政府免責説を中心として(2)

第00006号
2002年8月29日 更新

近年のアメリカ合衆国における
スポーツ事故の訴訟と判例の概況
=政府免責説を中心として(2)=

諏訪 伸夫

筑波大学体育科学系教授

 

政府免責の動向と近年の判例

地方公共団体に主権者免責の原則を適用する場合には、地方公共団体のすべての行為について適用するのではなく、地方公共団体の行為を統治的機能(overnmental function)と管理的機能(proprietary function)とに分け、管理的機能に関する行為には適用されないという考えが「ベイリー事件」(1842年判決)9) という事件において確立し、以後多くの州に普及するに至った。もっとも、何が統治的機能であり、何が管理的機能であるのかを決めることはなかなか難しい問題であるが、一般的に警察、消防や教育機能が統治的で、水道や照明等が管理的であるとされる。10)
また裁量的職務(discretional duties) に従事する公務員は原則として免責を受けるが、事務的職務(ministerial duties)に従事する公務員には免責が与えられないという法理が1960年以来、政府免責を採用する多くの州において通用している。リチャード・ペリー(Richard Perry)は、カリフォルニア州法誌(California Bar Journal)上で、1961年に出された一連の判例を評して、政府機関の機能が統治的なものか管理的なものかということが重要なのではなく、問題は自由裁量的職務か事務的職務なのかであると言っている。11)
このような政府免責の過去から近年に至る動向をみてみると、1970年代にはほぼ全米の約8割が政府免責を有していたが、次第に減少し、1980年代には、列挙すればアラバマ州、アーカンソー州、コロラド州、デラウェア州、イリノイ州、ケンタッキー州、メリーランド州、ミズーリ州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ユタ州、ヴージニア州、ウェストヴージニア州、ウィスコンシン州の各
州が政府免責を保持しているものの、それもさらに退潮の傾向にある。12)
すなわち、1950年代は政府免責の原則が支配的であったが、被害者の救済という観点から問題が指摘され、過半数の州が政府免責を保持している1960年代の前半までは、保険による被害の填補を志向するものの不十分なものであった。1960年代は人権擁護運動が追い風となり、1970年代の各州における不法行為請求法という制定法の制度化へと結実し、1980年代に保険による賠償請求の整備充実と民法の改正により、被害者の救済方策と実質的な損害の補填制度が漸進的に整備されてきたといえよう。

次に近年の政府免責にかかわる判例を若干みてみよう。

ミシガン州において、フットボールで受傷したプレーヤーが彼のフットボールコーチと半身不随をもたらしたヘルメット製造者を訴えたところ、裁判所は競技プログラムを展開する公立学校は、フットボールの管理・監督という統治的機能の一翼を担い、フットボールコーチ、監督及び教師は政府免責の下にあるとし、さらに、体育活動は教育課程の一環としてまたは課外活動の一環として、生徒に与えられる公教育の一部をなしており、したがって免責されるとの判断を下した(1981年判決)。13)

「アラバマ州において、学校後援のデイキャンプ中のスケートで、6歳の男子が足の骨を折ってしまった。そこでその保護者のフォークナーは学区の雇用者であり、事故当日の監督者であったパターソンには、生徒の監督を十分に行わなかったという過失があるとして訴えたが、アラバマ州の裁判所は、一審、二審ともアラバマ州憲法(Alabama Constitution)の定める免責規定により、原告の訴えを斥けた。さらに、この州の免責規定は、州の雇用者が裁量的職務(exercise of a discretionary function)に従事している場合にも適用されるとの判断を示している(1994年判決)。14)

本小論の締めくくりとして、連邦不法行為請求法(Federal Tort Claims Act)にかかわる判例をみてみよう。

連邦森林局の認可を得ている、ホワイトウォーター社の企画によるカリフォルニア州ユバ川の渓流下りで溺死した故人の未亡人が、連邦不法行為請求法に基づき、連邦森林局を相手取り、連邦森林局はホワイトウォーター社を適正に管理・監督せず、また故人に対して渓流下りの危険性を警告しなかったという理由により損害賠 償請求の訴訟を起こした。
これに対してカリフォルニアの連邦地方裁判所は、活動もしくは過失に対する監督は裁量機能(discretionary function)ということから、訴えを斥けた(1986年判決)。15)

(注)
9)田中館照橘「アメリの国家賠償制度(1)」『地方自治職員研修』1980年10月号、第13巻10号、通巻158号、pp.100-101.「ベイリー事件」(Baily v. New York City,3 Hill 531, 38 Am.Dec. 669 <N. Y.1842>)
10), 11) Betty van der Smissen,“Legal Liability Cities and Schools for Injuries in Recreation and Parks ", The W.H. Anderson Company, 1968, p.6,pp.28-30. なお、一連の1961年の判例として、例えば、Lipman v. Brisbane Elem. School Dist., 55 Cal (2d) 224,359 P (2d) 465 (1961) やMuskof v.Corning Hospital Dist., 55 Cal (2d)211, 359 P (2d) 457(1961) である。
12) 植村栄治前掲書及びR. A. Kaiser 前掲書より
13) Churilla v. School District, E. Detroit,105 Mich. App.32, 306 N.W. 2d. 38(1981).
14) Faulkner v. Patterson. 650 So. 2d873 (Ala. 1994).
15) King v. United States ForestServices, 647 F.Supp.20, U. S. Dist.Court, N.D. Calif. (1986).


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