製造物責任事故を中心として(2)

第00004号
2002年8月15日 更新

近年のアメリカ合衆国におけるスポーツ事故の訴訟と判例の概況(2)
=製造物責任事故を中心として=

諏訪 伸夫

筑波大学体育科学系教授

<前回からの続き>

製造物責任とスポーツ事故判例

次に、膨大ともいえるこれまでの製造物責任訴訟の判例の中、スポーツ活動にかかわる代表的なものを以下に若干あげてみよう。

(1 )不法行為法上の過失責任のケース・・・被告責任有り

●「ピッチングマシーン操作中高校生顔面負傷事件」(1972 年)(9 )
事件は1965 年4 月24 日、ダンビル高校がインディアナのエム・ロー・スポーツ用品会社から購入したダッドリィー・スポーツ社製オートマチックの野球用ピッチングマシーンを高校生ローレンス・シュミット(16 歳)が操作中、同マシーンのアームにより、顔面を殴打され、受傷したというものであり、高校生シュミットは、同マシーンを製造・デザインしたダッドリィー・スポーツ社と販売先のエム・ロー・スポーツ用品会社及び同マシーンをテストした副校長と野球部のコーチの所属するダンビル高校を相手として損害賠償を請求し、第1 審において認容されていた。
それに対してニューヨークのダッドリィー・スポーツ社は、ダンビル高校の同高校生を相手として控訴したのが本件であり、裁判所は、ダッドリィー・スポーツ社は、同マシーンのアームに何らの防護カバーもかけず、同マシーンの製造及びデザインに欠陥ありとして、また販売先のエム・ロー・スポーツ用品会社に対しても、適切な指示等を与えなかった過失ありとして、35,000 ドルを高校生シュミットに支払う判決を下した。

●「ソフト・ボール投手バット破片受傷事件」(1957 年)(10 ) ・・・被告責任無
ロバート・レオン・ジェームズ(16 歳)は、ソフト・ボールの投手であったが、試合中、ヒラリッチー・ブラズビィー会社製の打者のバットが二つに折れて、一片が飛来して同君に当たり受傷したため、同君の父親が同バット会社に対して損害賠償の請求の訴えを起こしたものであり、第1 審は手続き的なことで却下されている。判決は、ソフト・ボールの試合においては、バットがいかに適切に製造されていても、折れることは試合中の通常の危険といえるものであって、原告の訴えは認められない、とした。

(2 )保証違反についての厳格責任のケース・・・被告責任有り

●「ゴルフ練習機ボール少年頭部受傷事件」(1975 年)(11)
ルイーズ・ハウターは、カリフォルニア州のスポーツ用品製造・販売会社のゴルフ練習機(ギズモ)をクリスマスのプレゼントとして息子のフレッド(13 歳)に贈った。フレッドは早速練習したところ、同練習機のボールで頭部を打ち、重傷を負ってしまった。そこで、フレッドの親がギズモ社に対して損害賠償の請求をしたものである。地裁で原告の訴えが認められたが、被告ギズモ社が、本件のような事故はゴルフというスポーツに固有の危険を内在しているものであるなどの理由で上告したが、州最高裁判所は例え被告主張のように、ゴルフというスポーツが危険を内在しているものであっても、フレッドの事故は被告の製造物の固有の危険性から生じたものであり、被告のゴル練習機セットの箱に表示・広告されている、「全く安全で、プレイヤーには当たらない。」という明示の保証違反による責任が認められる、と判示した。

(3 )不法行為法上の厳格責任のケース・・・被告責任有り

●「フライ捕球失敗高校生サングラス破片受傷事件」(1970 年)(12 )
インディアナ州のマリオン近郊のオークヒル高校の生徒であるマイケル・フィラー(16 歳)は、1966 年6 月10 日の午後遅く、ラエックス社製のサングラスをかけて野球の試合の練習中、フライを取ろうとして、ボールを見失い、取り損ねて右眼に当ててしまい、不運にもサングラスの破片が右眼に刺さり、右眼の視力を失ってしまったため、マイケル・フィラーと彼の母親が損害賠償請求訴訟をラエックス社を相手として起こした。判決は、薄いメガネのレンズにボールが当たれば、細かく砕けて危険であることは容易に予見可能性があり、したがって欠陥のある製造物である売主のラエックス社に厳格責任ありとして、彼と彼の母親に102,000 ドル余りの損害賠償を認めた。

●「アメリカンフットボール高校生、試合中頭部打撲重傷事件」(1976 年)(13 ) ・・・被告責任無し
1970 年10 月2 日、アラバマ州アルハンブラ高校のアメリカンフットボール代表チームのメンバーであるケビン・バーンスは、試合中頭部打撲の重傷を負ったため、欠陥ヘルメットを製造したこと及び適切な警告をしなかったとして、学区及びヘルメットの製造会社であるリドル社を相手に、損害賠償の請求を行った。裁判所は、怪我はヘルメットによっておきたものでなく、被告側に不相当に危険な欠陥を有するヘルメットを製造したとはいえず、責任なしとした。

厳格責任(STRICT LIABILITY )

被告(メーカー)側に過失が存在したことを原告側(被害者)が立証する責任を課せられる過失責任主義や、被告(メーカー)と原告(被害者)との間の契約関係の存在について立証責任が原告に課せられる保証責任をさらに発展させた法理論で、原告は次の三点を根拠にして被告の責任を追及することができるというもの。
@製品に欠陥があったこと。
A損害がその欠陥により発生したこと。
Bその欠陥は被告(メーカー)の支配下にあった時に既に存在していたこと。

(注)
1 )P.Mergenhagen :Proguct Liability.Who Sues ?,American Demographics,June 1995,p.50.
2 )大羽宏一・森川均「製造物責任[PL ]法のすべて」日本経済新聞社、1994 年、p.35.
早川武夫「アメリカ法の最前線」日本評論社、1991 年、pp.192- 222.
3 )平野晋監修、今関辰夫・飯泉恵美子訳「アメリカのPL 法」社団法人商事法務研究会、1997 年、pp.147- 148.
4 )小西一生「PL 対策のすべて」中経出版、1995 年、p.1.「海外では米国が1960 年代の半ばに判例の形でPL 制度を確立し、欧州共同体(EC )でも1985 年に加盟各国に法制定を義務づけるEC 指令が出され、アジア各国も体制を次々に整備しつつある現在、先進国では唯一日本だけが取り残されていた。」
5 )田中英夫編集代表「英米法辞典」東京大学出版会、1993 年、p.671.
6 )小西一生、前掲書、pp.33- 35.
7 )宮守則之「アメリカのPL 訴訟を知る」有斐閣ビジネス、1992 年、 p..5.
8 )大羽宏一・森川均、前掲書、pp.14- 16.
9 )Dudley Sports Co.v.Schmitt 279 N.E.2d 266 (Ind.1972 )p.136.
10 )James v.Hillerich &Bradsby Company 299 S.W.2d.92 (Ky.App.1957 )
11 )Hauter v.Zogarts 14 Cal.3d.104,534 P.2d 377,128 Cal.Rptr.681 (1975 )
12 )Filler v.Rayex Corporation 435 F.2d 336 (7th Cir.1970 )p.151.
13 )Byrns v.Riddell,Inc.550 P.2d 1065 (Ariz. 1976 )p.157.

 


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