製造物責任事故を中心として(1)

第00003号
2002年8月8日 更新

近年のアメリカ合衆国における
スポーツ事故の訴訟と判例の概況(1)
=製造物責任事故を中心として=

諏訪 伸夫

筑波大学体育科学系教授


 

アメリカの製造物責任と訴訟

訴訟爆発(前00001号参照)の起こっている訴訟社会アメリカ合衆国(以下、単にアメリカと略称)においても、1960 年以前はスポーツにおける法的問題について、今日と比べてそれほど大きな問題となっていなかった。
ところが、現在、製造物責任の問題は、スポーツ産業界の大きな関心事となっている。例えば、州の裁判所において毎年9 万件にものぼる製造物責任判決が下され、その中の17 %がスポーツやレクリェーシヨン等の設備・備品に関するものであった(1 ) 。それと共に年々大きな補償責任問題を生じ、スポーツ用品に保険をつけるのに多額の費用がかかるようになり、スポーツ産業界にとって保険金の負担は次第に重荷になってきた。

1960 年代にはフットボール用ヘルメットメーカーは全米で20 社あったものが、それらの会社の製品を使用して起きた事故による損害賠償金額がいずれもあまりにも高額なため、現在ではほとんどのメーカーが生産を止めており、有名なジム用品のポンター・エクイップメント社も補償額が高くつくことから、1987年には生産を止めてしまい、1985 年には3 社に激減し、近年さらに1 社減るという状況であり、またトランポリン用品の製造物業者も1980 年代の半ばまでに、市場から撤退してしまい、このほかにアイスホッケー防具のメーカーも、アメリカ国内にはなくなってしまった(2 )
本小論は、アメリカにおけるスポーツ事故の際の製造物責任に関する訴訟と判例について述べているが、今関氏や飯泉氏による「製造物責任訴訟は、米国でビジネスに携わるいかなる企業にとっても日常茶飯事のことであり、また日本の製品が米国市場で売られている限り、その製造者たる日本企業は、その製品使用から生じる損害賠償を求める米国裁判所での製造物責任訴訟に、被告として名前を連ねるリスクに直面するであろう。」(3 ) という指摘を引き合いに出すまでもなく、本小論で述べている事柄は、とりわけ、わが国でも平成6 年7 月1 日に「製造物責任法」(法律第85 号)が公布・施行されていることに鑑み、決して対岸の火事のごとく高みの見物ないしは座視して過ごせるものでもないといえよう(4 )

製造物責任法(いわゆるPL 法)は、元来英米法の体系を持つ国々で、判例法(コモン・ロー)において発展してきた不法行為法の一分野で、英米法辞典によれば、製造物責任(product liability )とは、物品の欠陥によって損害を被った者に対して、製造者および卸売業者・小売業者など、その物品を製造、供給または販売した者が賠償責任を負うとする法理であり(5 ) 、以下アメリカの判例をみてみる前に、アメリカにおける製造物責任に関する法的構成を概略、整理しておこう。

まず、欠陥については、アメリカ法律家協会によるリステイトメント(Restatement )によれば、「製品が売主の手元を離れた時点で、最終消費者によって予期されていなかった状態で、それが最終消費者に不合理で危険である状態」(第2 次不法行為法リステイトメント第402 条A における注釈)が欠陥と解されている(6 )
さて、大まかに、損害の回復のための可能な理論構成は、
@人または有形物に対する損害について不法行為法上の過失責任、
A人または有形物に対する損害について不法行為法上の厳格責任、
B人または有形物に対する損害について明示又は黙示による保証違反に基づく契約法上の厳格責任(注1 )
C製品が仕様通りになされていなかったことが明示または黙示保証違反に基づく契約法上の過失責任・厳格責任
が考えられるが、これらのうち、製造物責任でとりあげる損害が人又は有形物に対する損害賠償であって、無形の経済的損失ではないため、製造者等に対して損害賠償を求める被害者が利用しうるのは、結局、
@不法行為法上の過失責任(negligence )、
A保証違反についての厳格責任(breach of warranty )、
B不法行為法上の厳格責任(strict liability )が考えられる、
という3 つがあげられる(7 ) 。特にBの不法行為法上の厳格責任という考え方は、弁護士ラルフ・ネーダーRalph Nader が活躍した1960 年代の消費者運動の高まりの中、1963 年のカリフォルニア州で起きた、グリーンマン対ユバ・パワー・プロダクト事件(Greenman v.Yuba Power Pro-ducts,Inc.,59 Cal.2d 57 <1963 >「電動工具使用中木片飛出し受傷事件」)をリーディングケースとして、原告は被告の過失を立証しなくとも製造物に欠陥があることを立証しさえすれば、被告が不法行為法上の厳格責任を負うという、厳格責任の法理いわゆる無過失責任が裁判所より判示され、被害者救済に大きなワンステップを踏み出すこととなり、以後アメリカの各州で採用されるようになったものであり、またこのように製造業者側に厳しい責任を課すのかという理由については、
@損害を分散することができること、
A被害者の証明責任を緩和すること、
B事故抑止ができること、
C消費者は製品に安全性を期待していることの諸点があげられている(8 )

<次回に続く>


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