近年のアメリカ合衆国における
スポーツ事故の訴訟と判例の概況(1)
=危険引受の法理を中心として=
諏訪 伸夫
筑波大学体育科学系教授
訴訟とアメリカ社会
『訴訟社会アメリカ』(中公新書、1993 年)の著者長谷川俊明氏によれば、「訴訟王国アメリカ」は法曹一元制に支えられた「弁護士王国」でもあるという。実際、アメリカ合衆国(以下単にアメリカ
と略称)には、現在約百万人もの弁護士が活動しているといわれている。日本ではおよそ2 万人ほどなので、アメリカの弁護士数は日本の弁護士の約50倍ということになる。日米の総人口比は、アメリカが日本のほぼ2
倍であることを考えれば、アメリカには過剰?といわれるほど非常に多くの弁護士がいるわけである。アメリカの法制度の基礎は、イギリスから受け継いだものであり、イギリスの法体系は、コモン・ロー(Common
Law )と呼ばれ、コモン・ローの世界では「はじめに訴訟ありき」といってよいくらいに訴訟が中心的役割を果たしている。
1 ) アメリカが訴訟社会(litigious society )といわれる理由としては、様々なものが指摘されているが、その主なものとして冒頭に述べた多数の弁護士の存在に加えて、次のようなものがあげられている。
@市民等の訴える権利の手厚い保護、"安い訴訟提起費用や弁護士起用の際の成功報酬ベースの引き受け(contingency contract )の許容等、
A司法積極主義(judicial activism )下の三倍賠償(treble damages )や懲罰的賠償(punitive damages )、集団訴訟(class
action )制度、
B陪審(jury trial )制度、
C訴訟好きなアメリカ人(litigation crazy )による“Sue first and talklater.”
の風潮であり、実際、アメリカでは提起された訴訟のうち、約5 %のみが審理され判決が下され、残りの95 %は判決に至らずにその前に和解で解決されているという。
2 )アメリカ社会は、今「訴訟爆発」(litigation explosion )という現象に見舞われており、このような現象はスポーツにおいても例外ではなく、スポーツもまた「訴訟爆発」による多大な影響を受けていることが既に十年以上前から指摘されている。
3 )洋の東西を問わず、スポーツ活動にともなって、しばしば擦り傷や打撲傷を負ったり、ときとして重傷を負う場合もあり、ごくまれに死亡する場合もある。事故はまさに文字どおり「事故」であって、スポーツ関係者の事故防止努力を乗り越えて惹起される。アメリカでは、医者の手当てを必要とするほどのスポーツ事故が1
,700 万件も発生し、その中なんらかの後遺症を残すものが600 万件ほどで、スポーツ・レクリェーションによる傷害事故の死者は、毎年およそ6 ,000
人にのぼるという。
4 )スポーツ事故が発生し、その法的責任が問われる場合、大まかに類型化すれば、刑事上(criminal )の責任と民事上(civil )の責任が追求されるが、アメリカにおけるいわゆるスポーツ訴訟といわれるものの大半は、民事訴訟であり、また後者の民事上の責任は、さらに不法行為(torts
)責任と契約(contracts )違反とに区分され得るが、スポーツの傷害(injury )に関する訴訟の多くは、過失(negligence )によるものであるゆえ、本稿では不法行為責任、それも過失(ネグリジェンス)をめぐる責任にウェイトを置いて述べていこうと思う。
<次回に続く>
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