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読者からのQ&A
入澤 充 東京女子体育大学助教授
Q
私は62歳の女性です。私は歩いてすぐ近くのスポーツクラブに入会していましたが先日、ランニングマシンを速度5で利用していたところそのテンポについていけずころんでしまい、手をついた瞬間に手首を痛めてしまいました。直ぐにインストラクターが助けに来てくれ応急処置をしてくれ、その日は帰宅しました。しかし、2〜3日経っても手首のみは直りません。近所に住む友人にそのことを話したら、スポーツクラブのランニングマシンに欠陥があったのではないかと言われました。もし、そのようなことがあったら過失責任を問うことができるのでしょうか。
A
ランニングマシンは一般的にはスタートボタンを押すと徐々にスピードが上がり、指定した速度のところへ行くと同じペースで使用することができますが、速度5というと早足で歩く感じでしょうか。62歳の女性としてはかなり高度なことだと思います。
健康のためあるいは余暇利用ということで高齢者のスポーツクラブ利用は年々増えています。それだけにクラブ側の利用者に対する安全配慮は徹底されなければなりません。当然初心者がマシン等を使用する場合はインストラクターが事前に使用上の注意事項を丁寧に指導するものと思われます。ランニングマシンは利用者自身が操作をして使用するものですが、器具の安全点検は慎重に行われていると思います。
そしてスポーツを行う際にはその行う人が安全で楽しく行うことが重要です。東京地裁は「一般に、スポーツの競技中に生じた加害行為については、それがスポーツのルールに著しく反することがなく、かつ通常予測され許容された動作に起因するものである時は、そのスポーツの競技に参加した者全員がその危険をあらかじめ受忍し、加害行為を承諾しているものと解するのが相当」という判決を昭和45年2月27日に下しています。さらに横浜地裁横須賀支部は「危険な要素を含むスポーツでは伝統的にこの危険と、そのスポーツ本来の特質とを関連させて、安全で楽しく、意義ある活動をして推進するために長年の歴史を経てそのスポーツ独特のルールができている」と昭和52年9月5日に判示しています。
この2つの判例からもわかるようにスポーツを行う際には危険を同意した上で行い、ルール内で行われていた場合、万が一事故に合ったときはその加害行為に関して違法性は阻却されることになっています。しばしばスポーツ事故が訴訟になるのは、ルール内で行っていないから事故が生じ損害が発生するのだという主張を被害者が展開するからですが、裁判所の判断は明らかな過失がない限りルール内で起きたケガ等は本人が受忍しなければならないとしています。
また本件のご質問の内容と若干異なりますが、ゴルフ練習場の事故事件でゴルフ場経営者X及びプロゴルファーY、主催者Zの過失責任を認めた判例があります。これによるとゴルフ場経営者が経営する付近のゴルフ練習場でプロゴルファーのレッスンを受けていたAの頸部に同じくレッスンを受けていたBの振ったドライバーが当たり、頸部挫傷・頸椎症の傷害を負ってしまったため、AはB、Yに対して民法709条による不法行為責任、X、Zに対して民法715条による使用者責任により損害賠償を請求したところ、裁判所は、Aの過失責任、プロゴルファーYの指導上の注意義務違反、X,Zに対してのYの使用者としての責任を認定したのです。(東京地裁平成2年9月19日判決)
そこで本件ご質問に戻りますと、本件の事故はランニングマシンの欠陥によるものではないかとのことですが、ご質問者の他にケガをした人がいた、あるいはしばしばそのマシンが故障をしていた等との理由が重なっておればランニングマシンの欠陥は明らかになりますから、当然民法717条により損害賠償、またランニングマシンを製作した会社の製造物責任が追及できると思います。
その欠陥とは製造物責任法第2条によれば「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物にかかわる事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」と定められています。またランニングマシンの欠陥、つまり瑕疵の基準については「当該営造物の通常の利用者の判断能力や行動能力、
設置された場所の環境等具体的に考慮して当該営造物が本来備えるべき安全性を欠いている状態」(松山地裁昭和46年8月30日判決)ということができますので、お尋ねの限りではご質問者の他に怪我をしたというようなことがなくクラブ経営者側の安全管理、指導者の注意義務違反、製造物責任等々を問うことは難しいと思います。
(本文引用の判決の詳細はいずれも伊藤堯著『スポーツ・アクシデント改訂第3版』を参照されたい。) |