学校教育における運動会、 騎馬戦の歴史的変遷と
体育行事としての位置づけと 現況を検証すると
コラムニスト 平光 正則
さて、本題の昭和62年(1987年)9月、福岡県立高校の2年男子生徒A(当時)が、同校運動会の騎馬戦で、先頭の騎馬を担当、競技中に相手方の複数の騎馬に押し倒され、敵味方の騎馬と共に、ひとかたまりになって倒れ、この生徒Aは首の骨を折るなどの重傷を負い、手足に麻痺が残り同年、身体障害1級の認定を受けた事故。
この事故後、6年10か月も経ってから、生徒A(当時)とその両親が「騎馬戦で負傷し、手足に麻痺が残ったのは、学校側の安全への配慮を怠ったためである」として、福岡県を相手取り、総額2億5,200万円の損害賠償を求めて、福岡地方裁判所に提訴した。
この事故前後の概要、事実関係等は前回述べたが、今回は騎馬戦の危険性に伴う防止策等について、呉大学社会情報学部教授・小谷寛二氏が、今後の参考になる指針を示している。
その中から主なものを拾ってみる。
1.審判の役割については、ルールを守り、ゲームを進行するゲームの遂行補助者である。
安全配慮についてもルールの中で判断される。そのルールに違反する審判は、ゲームの破壊者である。審判は生徒の外圧的な暴力行為の監視役として配置されている。高校生であれば、倒れるときには通常は反射的に手をつくなど、自分の身を守ることが当然予測されるので、倒れる瞬間を待って中断させ支えるなどの行為を、審判に求めることは適当でないと考えられる。
1.危険防止のためのルールを定めるかについては、次のように述べている。
スポーツ・ルールは、スポーツを構成し、ゲームを成立させるのに不可欠な要素である。
スポーツは、ゲームとルールからなっている。スポーツ・ルールは知らなくても、スポーツはできる。野球、サッカーのルールブックを見ないでも、それらを楽しむことができる。それを見る観客の方も、ルールを知らずに楽しんでいる。応援団や解説者がゲームを楽しくさせる手伝いをしてくれている。
スポーツとして普遍的な通事的な文化に制度化されなかった騎馬戦は、共時的な文化として閉じられた各学校での運動会種目として定着してきた。それだけに、明示的なルール構成というよりも、黙示的なルール構成になる傾向にある。学校共同体の閉じられたゲームを構成する傾向にあり、それだけにスポーツルールよりも、欠陥の多い身体文化といえよう。
これらのことから、身体遊技・スポーツのルールは安全主義よりも、目的遂行主義である。
その過程の中で、安全に配慮されてルール化されていく。
例えば、騎馬による頭や足を使っての攻撃などの暴力行為の禁止やマナーに関する定めや、組み合った騎主が地面に落ちなくとも、それに近い状態にあれば、勝敗をつける背後からの攻撃は禁止する。ゲーム時間の短縮など、ケガへの防止に対するルールの配慮は一般化されたスポーツ以上にルール化されている。
また、結果の方法を、風船割りとか、騎手の帽子やはちまき取り、などに変更することさえあるが、この変更は、ルールの核をなしている、ゲームを楽しむ行為、としての意味付与を欠いてしまうこととなり、騎馬戦と命名しつつも、内容、おもしろさの保証といった記号性をその共同体から奪うものとなる。
さらに付け加えて、今日の運動会では生徒が自主性を学校行事に取り入れ、教科体育としての体育からの性格づけを運動会に求めなくなっている。生徒が自主的に決め、助言教員の指導をもとに原案を作成し、生徒の要求をできるだけ尊重して、職員会議に諮り、校長が承認している傾向が強い。また、それが望ましい運動会の形態であることを賛同している傾向にある。従って、高校の教科の発表という性格から、かなり変更されている。
以上のように運動会、騎馬戦の歴史的な学校の位置づけから現状を見て検証され、大いに参考になるところである。
さて、福岡地方裁判所は、平成11年9月、被告の両親の請求は斥けたが、原告(当時生徒A)の請求を容認、県は1億5356万円を原告に支払うよう判決した。これは、
1.騎馬対数騎馬の対戦を認めた競技方法であれば、騎馬の構成員の一人に多大な圧力が生じる可能性があるという危険性があるから、教諭は練習段階において、騎馬の倒壊の仕方、組み手のはずしかた等についての指導をすべきであるのに、これがなされていなかった。
2.また、指導教諭は複数の騎馬が集中して一緒に倒壊し、生徒に危険性が生じた場合には、対戦を中止させる等の措置をとるべき監視義務があるのに、これを怠っていたこと。
従って、福岡県の履行補助者である指導担当教諭らの過失によるものである。
よって、福岡県は、同事故について安全配慮義務違反による損害賠償義務を負うとしたものである。
ここで、安全配慮について具体的に指摘された点は、
1.県は履行補助者である担当教諭を通じて、十分な計画策定、適切な指示、注意、事故が発生した場合の対応策定等危険を防止し、生徒の安全を確保するための措置を講じるべき義務が課されている。
また、
▽事前に十分に対策を練り、運営方法を検討する等の義務
▽競技内容、生徒の能力に応じて、生徒に指導監督、注意する義務
▽事故を回避するため、生徒の動静を監視して、行事の進行状況等を把握し、危険な状況が発生すれば、直ちに対応で来るようにしておくべき義務がある、としている。
※参考資料/
朝日、読売、産経の各紙
呉大学社会情報学部教授・小谷寛二氏の研究資料より |