小・中学校運動会の騎馬戦

第00015号
2002年10月17日 更新

小・中学校運動会の騎馬戦

コラムニスト 平光 正則


さて、本題の小・中学校運動会における「騎馬戦」での事故について述べてみたい。
1985〜86年にかけて誕生した小・中学校運動会は、わずか数年で全国で展開され、1890年代後半には列島全域にわたって校庭は紅白に染まった。また、運動会は修学旅行とともに、我が国独自の学校行事として発展していった。その一つには、盆踊りあり、保護者たちの綱引きなどがプログラムに織り込まれ、村祭り的様相とともに地域との結びつきが強く、祭礼的な行事の性格を持つと同時に、その時代を写す鏡として、出し物にも現れていた。
騎馬戦もその一つで、武術訓練の変形ともいえよう。それだけに危険性を伴っている。3人が手を組んで馬をつくり、その手を組んだ上に騎手が乗って一対の騎馬となる。騎手同士が取っ組み合って相手方の騎手を馬から落とす。また、騎手の紅白の帽子やはち巻きを奪い取ったり、頭上の風船を割るなどの対戦方法が採られている。
それだけに、相手方の騎手を落とす方法によって危険性の度合いが異なってくる。
もちろん、柔道やラグビーと比べると、危険度ははるかに小さいが、騎馬の接触の仕方や騎手が落馬する状況、馬の崩れ方によって危険性の強弱の差が大きい。その競技の単純さから今日まで学校運動会ですたれることなく引き継がれてきたのであろう。従って、それぞれの学校で、騎馬戦を行うに当たっての安全基準、安全対策がそれなりに設けられている。

まず
▽生徒の自主性、自発性による危険回避
▽学校の安全教育の徹底
▽暴力行為への監視▽救助体制
▽事前指導▽指導、注意方法の徹底等があげられる 。

その参考例として、昭和62年(1987年)9月、福岡県立高校2年の男子生徒A(当時)は、同校運動会で騎馬戦の先頭の騎馬を担当して出場し、その競技中に相手方の複数の騎馬に押し倒され、敵味方の騎馬と共に、ひとかたまりになって倒れた。この勢いで、この男子生徒Aは首の骨を折るなどの重傷を負い、手足に麻痺が残り同年、身体障害者1級の認定を受けた。
この事故後、なんと6年10か月も経ってから、被害者の男子生徒Aと、その両親は、「騎馬戦で負傷し、手足に麻痺が残ったのは、学校側が安全への配慮を怠ったため」であるとして、福岡県を相手取り総額2億5200万円の損害賠償を求めて福岡地方裁判に提訴した。

その経過の中で明らかになった主な点を拾ってみた。
1.校内行事であった運動会の騎馬戦で、生徒Aは、倒れて第4頚椎を脱臼し、右上肢機能全廃、両下肢機能全廃等の体幹の機能障害による後遺症が残った。
1.生徒Aは、先頭馬として騎馬を組み、他の騎馬と押し合いになり、生徒Aの騎馬は馬を組んだまま他の馬と一緒に一塊となって倒れ込み、生徒Aは組み手が離れないため、頭から地面に突っ込む姿勢で倒れたために負傷した。
1.この騎馬戦は、大将落としといって、騎手同士が組み合って、騎士を落とす競技方法で、1騎馬対数騎馬の対戦を認めている。しかも競技時間は90秒という短いもの。
1.このことから指導教員自身が騎馬戦の危険を認識、理解し、また生徒の騎馬戦の経験能力等を十分に把握して、生徒の安全確保のために適切な指導をすべき注意義務がある。
1.指導教員は、練習段階で、騎馬の倒壊の仕方、組み手のはずし方等について指導するべきであるのに、これを行っていなかった。
1.騎士が地面に着きそうになって、危険と思えるときは、勝敗を決して対戦を中止する。騎馬が倒壊しそうな時は、審判はこれを支えてやることが必要と考えていたが、教員には具体的な指示をしていなかった。
1.1騎馬に対して、複数騎馬が攻撃することは、禁止していなかった。
1.運動会の本番前に、体育科運動会担当教員は、騎馬戦審判教員に、騎馬の危険な状況として、2〜3の例を挙げて騎馬が危険な状況になった場合やルール違反が行われた時は、攻防を止めて、危険な状態を回避するようにという指導をしていたが、その際、具体的な止め方の指示等までしていなかった。
1.予行練習の際、入退場の練習をしたが、実際の試合は行われず、審判、騎馬の動かし方を確認し、90秒以内で一方が勝ったことにして、勝敗がついた場合の移動の仕方等の練習をした。
1.また、指導教員は複数の騎馬が集中して一緒に倒壊して生徒に危険性が生じた場合は、対戦を中止させる等の措置を取るべき監視義務があるのに、これを怠っていた。

従って、県の履行補助者である指導教員らの過失によるものである。
このことから裁判所は、県の履行補助者である指導教員らの過失によるものであるから、県は安全配慮義務違反による損害賠償義務を負う、とした。

ここで、生徒Aの先頭騎馬と複数の騎馬ともつれ合って倒壊した模様を再現してみよう。
決勝戦開始間もなく走ってくる相手方1騎馬から体当たりを受け、強い衝撃を受けた。その後、左側から押されて押し合いとなる。生徒A騎士は相手の騎士と取っ組み合いとなる。
そこへ、相手方のもう1騎が右サイドからぶつかってくる。ここで相手方の2騎と押し合いとなった。さらに、後ろから他の騎馬から押される状況となった。
生徒A側のもう一組の騎馬からは、周囲の状況は全く見ることが出来ず、相手方と押し合いとなる。体が前かがみとなる。顔は下を向いた状態で、もみ合うように押し合った。生徒Aは、押されたり、蹴られたりした。生徒A騎馬は、後ろの騎馬から押され、踏ん張りきれず、前方へ、騎馬を組んだまま、他の騎馬と一緒になって一塊となって倒れた。
お互いがその指を付け根まで互いに深く組み合わせ、外れないように手を組んでいたため、一方が手を外そうとしても、容易には外れない状態であったという。
生徒Aは、一塊となって倒れた際に、騎士を支えるため腕を後ろに回しており、手を着こうとしても組み手が離れず、頭から地面に突っ込むように真っ逆さまの状態で倒れた。
この場面は、近くにいた審判教員が生徒Aの騎馬を最初に接触したところは見たものの、その後に別の騎馬を見ていたために、他の審判教員とともに誰も生徒Aを見たものはいなかったという。


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