学校山岳部員の登山中の
遭難事故をめぐる裁判にみる(2)
コラムニスト 平光 正則
<前回からの続き>
OB の助言を受けた学校山岳部員のみの遭難事故裁判をみる
もう一つの例は、OB の助言を受けた高校山岳部員だけの登山事故である。
京都府立高校の課外教育活動の一環として設置されている山岳部の一年生が、同部員4 名のみで昭和58 年7 月22 日から27 日までの予定で、穴見白戸川メルガ岐沢から丸山岳への山行を実施することになっていたが、雨のため出発日を2
日遅らせ24 日に出発したところ、雨で増水していた沢を渡渉中に転倒し、川下に流されて死亡したというもの。
この死亡した一年生の両親は、同校山岳部の指導・監督に当っていた同部顧問教諭に、本件山行計画を許可したことや、これを許可するに際して指導を怠ったことなどの過失があったとして、京都府に対し国家賠償法第一条または在学契約上の安全義務違反による債務不履行責任により損害賠償を請求した。
これに対し、京都地方裁判所は昭和61 年9 月26 日、顧問教諭には指導・監督義務違反がないとして、請求棄却の判決をした。
そこで、本件事故と学校の法的責任について追跡してみた。
同校山岳部は、OB の助言を尊重する背景として、伝統的に顧問教諭の指導面での関与を敬遠する傾向があったが、本件事故について顧問教諭には指導・監督上の義務違反がなかったと、裁判所は次のように判決している。
「本件事故の直接の原因は、本件事故当時の行動の遅れによる焦りから、パーティーが昼食や十分な休息を取ることなく、降雨の中で長時間の山行を続けたこと、及び渡渉する際にパーティーが二つに分かれており、救出に万全を尽くせなかったこと。即ち、パーティーの具体的な判断・行動の誤りにあると認められる。
もっとも結果的にみれば、本件事故当日の気象状況下においては、当初の計画から一泊短縮された三泊行程の日程に無理があったといわざるを得ず、この点が、このパーティーの判断・行動を誤らせた遠因になっていることは否定し難いところであり、したがって、事前の計画修正段階、あるいは出発直前に適切な助言・指導があれば、本件事故は、防止できたと考えられなくもない。
しかしながら、三泊行程への計画変更は、顧問教師には報告されず、また、実際の出発日も同教師に報告されないまま本件山行が実行に移されたものであるから、当初の計画によれば、過去に二度、いずれも本件の山行と同時期に、同校の編成メンバーで四泊ないし五泊行程の計画が実行されて、何らの故障もなく、危険もなく完了していたことが認められ、同事実に照らせば、当初の計画自体は特に危険なものであるとは認められず、同教師がこれを是認したことについて何ら問題はない。
しかし、把握していない同教師に、その指導・助言を期待することは無理であったということはできない。
さらに、この計画の変更が、同教師に何ら報告されないまま行われたこと自体、顧問教師の指導・監督責任が問題となるが、山岳部には顧問教師の努力にもかかわらず、OB
の影響が強く、顧問の指導面での関与を敬遠する傾向が存し、その指導・監督が事実として制約を受けていたことは否定できないところであり、また、この制約を直ちに同教師の責に帰せしめるのも相当でないというべきであるから、この点をとらえて、同教師に指導・監督義務違反があったということもできない」
高校部活動は教師の指導によって計画・実行されなければならない
伊藤堯東京女子体育大学名誉教授は、著書「ケーススタディ〜スポーツアクシデント」の中で、本事件について次のようにコメントしている。
「@OB の協力は必要だが、高校の部活動はあくまで教師の指導によって計画・実行されなければならない
A山岳部活動は危険性が高く、教師と生徒が一体となって平素から技術の向上と山岳関係の知識を身につけておかなければならない
B緊急事態に対処できるように学校・保護者との連絡協調体制を確立しておくことが必要である」と安全配慮義務・自己過失のポイントを述べている。
参考までに当時の日刊紙を見ると、本件山行の24 日前後の天気は、23 日未明から島根県西部を中心に中国地方に集中豪雨が襲い、次第に雨脚を同県東部へ移し、各地でがけ崩れ、河川氾濫などの大きな災害の爪跡を残し、死者・行方不明100余人を数えた。
このような異常気象下にあって、山行を強行することは、自然の力を侮る、山岳部員としてあるまじき行為といってよい。また、天気図の見方は勿論のこと、天気に強くなければ、山に登る資格はないとまでいわれている。指導・監督に当る顧問教師、OB
の注意義務を問いたい。
夏山は一年中で最も安定したシーズンとみられがちだが、暑ければ日射病、いったん崩れると前線に伴った集中豪雨や雷、霧、台風による強風と大雨など、危険はいっぱいである。だからこそ、山岳部に入部すると、まず天気図の見方からはじまる程である。天気に強くなければ、山岳部員としての資格はないとまでいわれている所以である。
山岳部顧問教師、OB の勇気ある指導・監督が望まれている。
|