アスレティックトレーナー
高校部活動の現場から
Part7:バーンアウト
米国NATA公認アスレティックトレーナー
八田 倫子
以前日本バドミントン協会からの派遣で全日本チームの遠征に帯同させて頂く機会を得た。フランスとの国境に近いスイスのバーゼルという街で、試合を控えたある選手とお昼ごはんを済ませ、荷物を取りに滞在先のホテルに戻る途中、ふと彼女がこんなことを言った。「私がバドミントンを始めたのは小学校の頃だったんですけど、そのときのクラブの先生が、『バドミントンを好きになって一生懸命練習したら、ラケット一本で世界を回れるようになるかもしれないぞ』って言ったんです。あの時はまだ小さくて、始めたばかりだったし、そんな話は夢だと思っていました。」とまるで他人事のように笑っていた。その彼女が、十数年後に日本の女子シングルス界を引っ張り、ワールドランカーにまで成長しようとは、当時指導にあたられた方も予想していなかったに違いない。でも、彼女のほうはバドミントンを最初に教えてくれたその少年団の指導者の言葉を時折思い出しながら、ずっと競技を愛し、本当にラケットだけで世界を転戦するようになったのである。大袈裟なようだが、聞いていて鳥肌が立つようなエピソードであった。
日本のトップ選手のなかには10代のケガがもとで上のレベルでプレイできなくなったり、頂点に達する前に種目そのものが嫌いになったりして、途中で止めてしまうケースが多い。逆に未来のドル箱選手を多数抱えるアメリカの高校や大学には、もともとの故障を持っている選手が少ない。また、アメリカにバーンアウトを起こす選手がいない訳では決してないが、日本のそれは年齢が低い選手にも多くみられる。前に、日本とアメリカの高校のトレーナーシステムの相違についてご紹介した。今回は部活動や体育会に属する高校や大学生選手の日米の様子を比較しながら、日本にオーバートレーニングやバーンアウト症候群が多い背景について触れる。
<シーズン制の導入>
憶えていらっしゃる方も多いかと思うが、何年か前にNBAのある有名選手がバスケットボールのオフシーズンにメジャーリーグでもプレイし、二足のわらじを履いて話題になった。日本ではちょっと考えられないような話だが、アメリカのシーズン制システムは高等教育のレベルから導入されており、二つのスポーツにトライすることは決して不可能ではない。
アメリカの学生は4〜6ヶ月という、日本からみれば非常に短いといえるシーズンを終えた後、アルバイトをしたり、地域の奉仕活動や文化系クラブに参加したりするなど普通の学校生活を送る。また、常に何かスポーツをしていたい学生は、シーズンの異なる別の競技に参加することもできる。例えば、夏の終わりから秋にかけてサッカーチームでプレイしていた選手が、クリスマスをはさんだ冬休み明けに今度はソフトボールチームに入るというようにである。テニスやゴルフなどの一部の個人競技を除き、アメリカでは10代の選手が365日休みなくひとつの競技に明け暮れるという環境は存在しない。正確にいうと、年中練習することを中央団体が禁じている。アメリカの高校や大学には競技活動(選手が個々に行うコンディショニングを除く)を全く行わないオフシーズン期を必ず入れるよう制度が整えられていて、みなリフレッシュして次の新シーズンを迎えることができるのである。
一方、日本の同世代選手はどうだろうか。全体的な競技スキルはアメリカの平均的な学生と比べると恐らくとても高く、熟練しているといえる。しかし、彼等の殆どが幼い頃からひとつの競技種目しか行わず、同じような身体の部位を同じようにしか使っていないため、そのスポーツでは非常に長けていても、違う種目をやらせてみると驚くほどコーディネーションが悪かったり、基礎体力の測定値が予想外に低かったりするという話をよく聞く。こういった選手のなかには長年のオーバーユースからくる慢性障害に悩まされたり、偏ったボディバランスのためにひょんなことから思わぬ大きなケガをしたりする者もいる。
<次回に続く:多すぎる天王山> |