アスレティックトレーナー
高校部活動の現場から
Part5:最も恐ろしい体験続き
米国NATA公認アスレティックトレーナー
八田 倫子
<トレーナーのマルプラクティス>
結論から言えば、この選手の病院での検査結果に異常はみられなかった。逆行性健忘症といって、事故が起きる直前の記憶がとぶという症状は事故当初強くでてはいたが、休日の大渋滞で最寄りの病院まで30分もかかった救急車のなかで、選手は終始覚醒しており、雑談もできた。その後の数日間は軽度の頭痛に悩まされはしたが、後遺症も全くなかったのである。まさに不幸中の幸いであった。
あとで顧問教諭から、事故直後に選手の処置をした男性は相手チームのトレーナーであると聞いた。筆者は、彼がわざと禁忌行為となる処置をしたとは無論思っていない。ケガをした選手のチームにトレーナーがいるのを知らず、自分よりほかにあの状況を対処できる者はいないのだと、懸命に処置をしてくれたに違いない。恐らく、普段のトレーナー業務においてとても優秀なかたで、沢山の選手をサポートしてこられたに違いない。ただ、今回のように頭部や頚部の傷害が起きた際に何をすべきか、あるいはすべきでないかということをご存知なかったことは非常に残念であった。
法律や医学、教育がご専門の読者に対し、日本の資格を何も持たない筆者がマルプラクティスについて語らせて頂くのは非常におこがましいことであるのは十分承知である。しかし、ご紹介したケースでは実害こそなかったが、相手チームのトレーナーが行ったことは一歩間違えればマルプラクティスになり得た。また、その光景に驚き、たとえ数秒間であっても彼を止めるのを躊躇した筆者の行為は紛れもなく過失となっていたであろう。今でも、仕事中ふとした際に鮮明に蘇る、苦い経験である。
用語解説
* マルプラクティス(malpractice)= professional negligence(専門家による過失)
医療過誤、弁護過誤、(専門家の)業務過誤
医師・弁護士・公認会計士など、専門家がその業務を正しく行わず、患者や依頼人に損害を負わせること。
同分野の専門家が通常行うことを行わなかったり、通常行わないことを行ってしまった事により、他人に損害を負わせること。
参考資料 英米法辞典
<次回に続く:現場スタッフの養成>
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