アスレティックトレーナー4

第00036号
2004年3月2日 更新

アスレティックトレーナー
高校部活動の現場から

Part4:最も恐ろしい体験

米国NATA公認アスレティックトレーナー 

八田 倫子

以前、私立高校が参加するバレーボールの全国大会をカバーした。会場で偶然、トレーナーを目指す専門学校生の知り合いに遇った。3月の卒業後に受け入れてもらえるチームを探すため、スーツを着て、数箇所に散らばった大会会場を回っているとのことであったが、残念ながら、その会場で彼が希望していたチームには既にトレーナーが就いていることがわかった。
高校レベルといえども、最近では大きな大会になると必ず会場でトレーナーらしき人を見かける。筆者は一昨夏のインターハイのバドミントン競技で、大会トレーナーのボランティアをかってでたが、専属トレーナーを連れてきているチームが多かったため、実際には救護ブースを訪れる選手はとても少なかったことを憶えている。学校レベルにもトレーナーが必要だと常々感じている筆者にとって、この実態を垣間見ることができたのは非常によかった。しかし、たとえスポーツの現場でのケガについて専門知識のある人材がいても、それがより大きな事故につながる恐れもあることを今回はご紹介したい。

<最も恐ろしい体験>
 現場のトレーナーの仕事を始めて、もうすぐ8年目になる。それ以前の4年間の学生インターン時代にも色々なことがあったが、10数年間に起きた現場での出来事で最も恐怖を感じた経験は何かと問われれば、私は迷わずひとつの出来事を思い出す。ドクターが現場にいることが殆どない学校スポーツの現場でどのようなことが起きているか、少しでもお伝えできれば幸いである。以下は筆者の体験談である。

あれは3年前の秋のことだった。高校サッカーの公式戦をカバーしていた筆者は、自チームのディフェンダーの選手が、同じボールを追っていた味方のゴールキーパーと前後並んで飛び上がる光景を見た。次の瞬間、ボールをキャッチしたキーパーの膝がディフェンダーの側頭部に入り、頭を強打された選手はそのまま地面に落下したのである。仰向けに落ちた選手は少しのけぞるような姿勢で痙攣を起こし始めた。会場で見ていた誰もが、ただごとでないことを予感した。
事故が起きたのはこちらのベンチから遠い方のゴールであった。監督と筆者はすぐにベンチから飛び出したが、すぐ目の前でこの瞬間を目撃した相手側ベンチからも、即座に大人がふたり走り寄っていくのが見えた。ひとりは試合中ずっと声を出していたことから、相手側の監督と分かったが、もう一人がどういうかたであるのか筆者には見当がつかなかった。そして、彼らのほうが先に痙攣している選手のもとにたどり着き、そのもう一人の男性が選手の首と頭部を両手で押さえたのだった。追いつきながらその光景を確認し、『よかった。こういった事故の処置をよく知っている人だ』と筆者は内心ほっとした。ところが、次の瞬間、彼は選手の顔を両手ではさむようにして押さえ、激しい勢いで左右にゆさぶりだしたのだった。それは脳挫傷や頚椎損傷の疑いのある人間に対して、絶対に行ってはならない行為であった。選手の首を振りながら『もう大丈夫だ!もう大丈夫だぞ!』と叫んでいる彼の姿に私は何がおきているのかわからず、一瞬動転して言葉を失ってしまった。が、すぐ我に返り『動かさないでください!』と大声をかけ、そのまま彼と入れ代わって選手の頭部と首を両手で固定した。

選手は呼吸していたものの意識がなく、薄く白目をむき口から泡をふいていた。そのうち、ひどいイビキをかき始めた。生命徴候はあったものの、脳震盪としては決して楽観視できるシナリオではなかった。そのうち、イビキがピタリと止まって突如目を開けた。周囲で一斉に大声で名前を呼びかけるが、またすぐ目を閉じ、2、3秒後に再びパチリと目を開いた。こんな状態を幾度か繰り返したのち、選手は完全に意識を取り戻した。終始、頭と首を押さえ、他のスタッフに手伝ってもらいながら神経系の評価をしたり、脳震盪の度合いをチェックする質問をしたりしているうちに救急車がグラウンドに入ってきた。その間ずっと『私のほうが早く選手にたどり着いていれば・・・』と深い自責の念にかられていた。

<次回に続く:トレーナーのマルプラクティス>


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