アスレティックトレーナー
高校部活動の現場から
Part 1:なぜ高校か
米国NATA公認アスレティックトレーナー
八田 倫子
アスリートのサポート役であるアスレティックトレーナーが仕事をする現場というと、プロチームや実業団チームをイメージする方が多いと思うが、筆者は現在、東京都と埼玉県の公立・私立あわせて3つの高校で、5競技の部活動を担当している。この連載では、高校の現場を通じて考える、部活動の安全性やそれにともなう疑問点についてお伝えしてゆきたい。
<なぜ高校か>
よく尋ねられる質問のひとつである。各競技の頂点にいる一握りの人口をみることは、トレーナーとして非常に魅力的ではあるのだが、トップレベルの選手たちの多くは既に抱えている沢山の慢性障害や以前のケガのために身体がボロボロだったり、それを上手に隠しながら競技を続けたりしているのが実状で、必然的にトレーナーの方も如何に症状や再発を抑えながらプレイさせてゆくかが主な業務となる。筆者は以前に、バスケットボールの実業団チームに就いていたことがあるが、高校時代に復帰に1年もかかるような大きな手術を2度も経験している選手や、ケガの再発が怖くて思い切ったプレイができないという選手を何人もみた。『アスレティックトレーナーの最も大切な役割はケガの予防である』とよく言われる。既に負ったケガをどうするかということも、無論非常に重要な業務のひとつだが、老朽化した施設や決して安全とはいえない環境での活動を余儀なくされ、成長発達段階の身体を酷使することが多いにも関わらず、そのケアをするスタッフが極端に不足している高校部活動の現場で仕事をすることは、広義での『予防』につながるのではないかと感じ、現職に至った。まずは、アスレティックトレーナーが殆どの高校に普及するアメリカについてご紹介しながら、部活動の安全性について説いてみたいと思う。
<部活動を取り巻く環境の日米比較>
いわゆる捻挫や骨折、脱臼等の急性外傷とよばれるケガは、万全を期していても起こりうる事故のようなものだが、日々の練習での外的ストレスが少しずつ同じ部位に溜まって起こる慢性障害は、練習環境やそれを補うトレーニングの導入、そして個人の身体管理能力を向上させることによって十分防ぐことができる。また、急性外傷のなかでも最も重篤である脳挫傷や頸椎損傷などのケガは、現場に専門知識のあるスタッフがいるや否やで、その選手の生命を左右する。筆者は、アメリカでの留学時代、大学4年次最後の学期に400人の高校生アスリートを擁する地元の公立高校でインターン実習をする機会を得た。ここでの数ヶ月間で、日米の高校部活動を取り巻く環境が如何に違うかを知り、落ち度があればすぐに訴訟を起こされるという法社会特有のデメリットはありながらも、子供たちの安全を守るために課外活動のシステム整備にも真剣に取り組むアメリカの教育や医療体制に驚かされた。州によっては、高校にトレーナーを雇用することを法で義務付けているところもあるほど、アメリカの高校でのトレーナーの普及率は高い。
アメリカの高校トレーナーの雇用形態は大きく分けて2通りある。ひとつはアウトリーチプログラムといって、地元の整形外科クリニックからの出向という形で派遣されるケース。この場合、午前中にクリニックで仕事をする者もいる。また、大きなケガが発生すると、特にその選手の保護者が指定するファミリードクターがいなければ、自分の所属するクリニックへ送り、医師の診断やレントゲン、MRI検査などの医療サービスを迅速に受けることが可能である。もうひとつの形態は、高校で直接雇用されるケース。この場合も、完全にアスレティックトレーナー業務だけの契約の場合と、午前中解剖学などの授業を一般生徒のために講義し、午後はトレーナーの仕事をするという場合とがある。
一方、日本は、学校契約でなく、部活単位でそれぞれトレーナーを雇用するケースが殆どである。学校の正規職員ではないため、生徒が安全に課外活動ができるようなハード面での環境整備やガイドラインを提案するために、教育委員会、学校の上層部、PTA、後援会、関係する教諭らと提携したり、それぞれに働きかけをしたりすることは難しい。現在、学校側がその必要性を認め、教員などの職員と同じように学校単位でアスレティックトレーナーを雇用している私立校は、全国でも数えるほどである。また、部活に契約トレーナーがいても、給与面の問題等で、彼らが常時選手の身近にいられないことがある。トレーナーの派遣料は多くの場合、部費の一部やOB会からの寄付金で賄われ、外に別の仕事を持たずして続けていくことが困難さ際は、チームに常に帯同することができなかったり、そのために全てののケガや事故に即対応できなかったりするのである。
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