はじめの一躍6/11

第00027号
2003年7月9日 更新

はじめの一躍
〜井の中の蛙、海を渡る〜

三段跳び日本歴代3位タイ記録保持者

井原 福代

 

Episode 6 【競技スポーツと故障】

ウイリー氏のコーチングを受けるにあたって、私はウイリー氏と何点か約束事をした。その中のひとつに、コーチとのコミュニケーションを大切にするというものがあった。ウイリー氏自身、現役時代に故障に悩まされたことが多く、同じ苦しみを味わって欲しくないのだと言う。故障については、私も競技を始めた頃から何より注意を払ってきた。中学・高校と指導してくれた監督が故障にはとても敏感だったことも影響している。故障をした時には、記録が悪かった時よりも何倍も叱られる。日頃から、ウエイト調整に気を配り、アフターケアや栄養面等にも気を使う。しかし、いくら注意していても故障してしまうことはある。私は、どこか痛くなると気が滅入り、どうやって監督にうまく伝えるか冷や汗をかいたものだ。日本の部活動に励んでいる中学生・高校生の中にも、私と同じように監督に叱られることを恐れ、痛みを我慢してトレーニングしている人がいるのではないだろうか。コーチの中には、少々痛みがあっても『根性でのりきれ』というような人がいるかもしれない。しかし、これがどれほどその後の競技生活に影響を及ぼすことになるか知って欲しい。私は、中学・高校時に有名だった選手が、オーバートレーニング等による故障が原因で競技を断念せざるをえなくなったという例をたくさん知っている。
私自身は、監督のおかげもあって中学・高校時はなるべく故障をしないようなトレーニングを行うことが出来た。これは、監督が競技の最終目標を中学・高校時ではなく、長い目で見た上で、トレーニングを組み立ててくれたからだ。この指導方法には、現在もとても助けられており、大変感謝している。しかし、専属コーチのいなくなった大学時からはトレーニング強度と故障のバランスを調整することがどれほど難しいかを痛感した。競技力を伸ばすには、当然強度の高いトレーニングが必要になってくる。しかし、その加減が分からない。学生時代は三段跳びを始めて間もないということもあり、トレーニング内容も初歩的な基礎トレーニングで記録を伸ばすことが可能だった。しかし社会人になってからは、それだけで記録を伸ばすことは難しかった。競技レベルを上げたいという一心で、とにかく出来ることは無理をしてでもやった。今思うと、後悔と反省ばかりである。私の身体には、次から次へと違和感が出始めた。その違和感が痛みに変わり、休養をしても気持ちは休まらない。少し良くなると、あせりからすぐにトレーニングを再開してしまう。そんな状況の繰り返しで、痛みを我慢して一生懸命にトレーニングしたにも関わらず、その年のシーズンは惨憺たる結果であった。その後は、トレーニングを中止しても痛みは消えず、日常生活までにも痛みを伴うことになった。
痛みを我慢してトレーニングを続行すると、練習をこなすということが第一目標になってしまい、何ヶ月後・何年後の最終的な目標からは確実に遠ざかってしまう。競技スポーツと故障は切っても切れない関係である。高いレベルを目指せばそれだけ高いリスクを背負うことになる。日頃から、故障をしない強い身体を作っていくことの必要性を強く感じた。大切なことは、単発的なトレーニングを行うことではなく、計画的なトレーニングを継続し、こつこつと積み上げていくこと。それが出来てはじめて強度の高いトレーニングを組み込んでいけるのだと実感した。

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