はじめの一躍3/11

第00024号
2003年6月12日 更新

はじめの一躍
〜井の中の蛙、大海で学ぶ〜

三段跳び日本歴代3位タイ記録保持者

井原 福代

 

Episode 3 【大海原へ】

私は就職難の陸上界で運良く就職出来たものの、その現状は変わらず、練習内容や技術的なことに関する不安、故障、さまざまなプレッシャーや人間関係までにも悩まされる日々が続いた。私は練習計画・技術面、コンディション・メンタル面も全て自分でコントロールし、故障も抱えているという状態に対応出来なくなっていった。陸上人生始まって以来の挫折だった。今まで周囲の人に頼り、運良く助けてもらってきた私にはいつか来るものだろう。追い詰められた私は競技を辞めようと真剣に考えた。10年間やってきた事をここで投げ出して、私はこれから続く長い人生において自信を持って生きていくことが出来るのか。自分が本当にやりたいことはどういうことなのか。自問自答が続いていた。しかし高校・大学と陸上の名門校で過ごし、当時日本一を誇る実業団チームに在籍していた私には、そこから抜け出す勇気も自信もタイミングもなかった。理想と現実の狭間で、どうにかして明るい方向に抜け出せる方法はないかと模索していた。
そんな生活の中で私に出来る事は、自分の出来る範囲で競技に関する情報を地道に集める事しかなかった。その手段としてインターネットはよく利用していた。いろいろなホームページを見ながら、何気なく送ったE-mailが私の競技人生の転機となった。日本の大学でもコーチ経験を持つ三段跳びの元世界記録保持者ウイリー・バンクス氏と親交があるというアスレティックトレーナーのA氏と連絡を取ることが出来たのだ。私は自分の立場も省みず「ウイリーさんに会わせてください。」という、メールを送ってしまったのだ。偶然か必然か、その時A氏は仕事の為アメリカ滞在中で、まさに次の日ウイリー氏と連絡を取るという。それからは、私にとって夢のような話が展開していった。ウイリー氏に私の現状を話したところ、私がアメリカに来ることが出来るなら指導してくれるというのである。今までの葛藤しながら過ごしていた生活から、抜け出すチャンスだと思った。競技を辞めようとまで思っていた私に再び、強くなりたい、遠くに跳びたい、という気持ちを与えてくれた。もう一度、陸上を始めた頃の生き生きとした自分に戻れるような気がした。しかし、新しい可能性へチャレンジできるという希望の裏側で、生活における安定性や安全面等、数々のリスクを背負うことになるのかもしれないという不安がよぎった。それでも私はほんの少しの可能性にかけ、アメリカ留学する道を選んだ。新しい未来に臆することなく、楽しんで挑戦していきたいと思う。いろいろな方々のご協力のおかげで、留学生活の準備が整った。ウイリー氏がよく口にする『犠牲と根性』という言葉が心に残っている。これから先は、私自身がどれだけやれるか本当の勝負の時であり、ラストチャンスだと思った。


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