市営プールでの児童の溺死事故

 

監視体制の確立が重要

▼ 事故と裁判の概要

 昭和51年7月12日、小学校6年生の児童Aが放課後、市営の競技用プールで遊泳中溺死した。市営プールには大プールと小プールがあり、大プールは50m×21.5mで9コースある競技用のもので、水深は1.5m〜1.6mある。事故当時、小・中学生約80名が利用していた。
 この大プールは小学生であっても校長の発行する泳力証を持っていれば同伴者なしで利用することができるようになっており、死亡児童Aは50m以上泳げるという泳力証を持っていた。この事故に際してAの両親はプールの監視体制が不十分であったのが事故の原因であるとして、プールの設置者である市と監視業務を委託されていた管理会社に対して損害賠償を請求した。
 第一審の名古屋地裁は、「プールの監視体制に瑕疵がなかった」として原告の請求を棄却した。
 この判決を不服とした原告が控訴したのに対し名古屋高裁は、「監視体制に瑕疵があった」として、市と管理会社に損害賠償を命じた。
 市と管理会社は最高裁判決を不服として上告したが、最高裁は高裁判決を認定し、上告棄却の判決をした。
(第一審 名古屋地裁 昭和54年10月22日判決)
(第二審 名古屋高裁 昭和56年9月22日判決)
(第三審 最高裁 昭和59年2月10日判決)
▼ プール施設の設置・管理の状況

 本件プールは、被告市が市民の体育の向上を図る目的で設置したもので、長さ南北方向に50m、幅東西方向に21.5m(9コース)、水深中央部約1.6m、南北各プールサイド側約1.5mで、底面は南北両側から中央に向かってなだらかな斜面をなしている大プールと、直径14mないし27m、水深0.5mのほぼ楕円形の小プールから成り、その周囲は金網および北側管理棟によって囲繞され、本件プールに入場するにはこの管理棟に設けられた入口および通路を通らねばならない設備になっていた。また、大プールの北側プールサイドには2本のロープが張られ、大プールその余りのプールサイドには金網がめぐらされており、2本のロープの間に存する2.6mの空隙が、本件プールにおいて大プールに至る唯一の入り口となっていた。
 本件プールは、午前9時から午後6時まで一般公開されており、入場を制限されていたのは、保護者の同行しない未就学時のみであったが、大プールを利用できるのは、小学生については、4年生以上でその各在籍小学校において実施される泳力試験において50m以上の泳力を有すると認定され、各小学校長から泳力証の交付を受けた者に限られていた。
 そして、泳力証を所有していない小学生の利用を防止するため、管理棟入口付近で泳力証を確認し、これを所持している者に対して、木の番号札を与えたうえ、大プール入口において番号札の所持を確認するという措置が講じられていた。
▼ 事故発生の状況

 本件事故発生当日Aは、午後3時30分頃下校した後本件プールに赴き、大プールを利用していた。午後4時からの約10分間の休憩時間が終了して間もない午後4時20分から30分頃、大プールを利用していた小・中学生らが、大プールの北側プールサイドから約6m、東側プールサイドから約3mの水中に沈んでいるAに気づき、騒ぎ始めた。この騒ぎを耳にした監視員は、直ちに大プールに飛び込んでAを大プールの東側プールサイドに運び、同監視員とほぼ同じ時期に近づいてプールサイドに駆けつけた被告市の職員2名とともにこれをプールサイドに引き揚げ、直ちに人工呼吸を実施しこれを継続したがAは蘇生せず、午後4時30分に通報を受け、直ちに本件プールに駆けつけた救急車によって近くの病院に運び込まれたときには、その心機能および肺機能はともに停止していた。
▼ 不完全な監視体制の責任(監視体制に瑕疵ありとした第二審判決の趣旨)

1.入力証による入場管理
 泳力の認定方法に問題があり、泳力証による安全管理のあり方について裁判所は次のように判決した。
 「Aの就学先の小学校では日頃、児童は水深85cmないし1.2m、長さ25m、7コース(幅15m)からなる学校プールにおいて、教師4名の指導・監督のもと能力検査がなされ、50m泳ぎ切ったならば泳力証が交付されることになっている事実が認められ、他の小学校についても同様であろうと推認されるから、日頃は学校プールで水泳練習し泳力証を得た小学生において、本件の大プールで遊泳するにあたり、それが競泳用施設の規模を有し自律・開放的に利用せられるという環境の相違に直面して、果たして学校プールにおけると同等の水泳能力を発揮し得るとはにわかに考えられず、その点を考慮したうえで大プールの安全管理をする必要がある。」

2.監視員の過失
 第一審判決では大プールにたまたま監視員がいなかったのは、事故の原因となる過失でないと判決したのに対し、第二審判決では、これを否定し、過失であるとして次のように判決した。
 「本件事故当時1名の監視員は監視台上で大プールを監視し、その視点からのAの水泳事故の発見が遅きに失した点は多分にやむを得ないと思われるものがあるが、もしも監視員2名が大プールの巡回監視に従事していたならば、必ずや事故を発見して適宜にAを援助し死亡に至らしめることはなかったであろうし、あるいはそれが監視員1名の巡回監視の場合でも、もう少し早期に事故を発見できて事なきを得られる確率も相当程度高かったと推認されるところ、現に巡回監視の任にあった2名の監視員は、小プールに赴いてしまい、大プールには巡回監視員不在の状況を現出させ、かくして必要とされる監視の眼が行き届かなかったために本件事故を発生させたものであり、しかも2名は小プールを挟んで14mの間隔で対面しているわけであるから、容易に相手方の存在に気づいていたはずであるのになおもとどまり、さらに出入口で検札していた監視人も巡視員が短時間内に2名とも大プールから退出しようというのに、これを制止しなかったものである。
 結局、3名の作為・不作為が相まって大プールにおける巡回監視不在状況を現出し、もしくはこれを現出せしめたというべき行為は、大プールを主として巡回監視するようにとの業務指示に違反しているのみならず、ひいては大プールの遊泳環境に重大な危険を招来し、ついには本件事故の発生原因となったものであるから、監視員3名の作為・不作為は共同して大プールお遊泳者に対する危険防止義務を懈怠することに該当し、本件事故発生について過失を構成するというべきである。」

▼ 本件事故の教訓

1.学校の泳力検定の方法と大プール利用の許可については十分配慮すべきである。
2.監視員が一時的でも不在にならないような監視体制の確立が重要である。
3.出入口検札も重要な安全配慮義務である。