市主催の水泳教室における
同伴幼児の溺死事故

 

主催者の管理体制の確立が重要

▼ 事故と裁判の概要

 Y市主催の「母と幼児の水泳教室」に参加していたX1が、参加していた幼児Aのほかに、3歳の次女Bと小学生の長男Cを同伴して自らは水泳指導を受け、長男Cに「見といてね」と3歳の次女Bを任せていたところ、3歳の次女Bが水深1.1mの一般用コースに転落して溺死した。
 この事故について死亡した幼児の両親であるX1、X2は、プールの設置・管理に瑕疵があったとして、Y市に対して損害賠償を請求した。
 裁判所は「市が、参加者以外の幼児を同伴している母親の水泳教室への受講を認めたのは、人的施設および管理体制の面においてプールの設置・管理に瑕疵があった」として損害賠償の支払いを命じ、母親にも「次女を同伴して、放置していたことに過失があった」として6割の過失相殺を認定した。
(福岡地裁 昭和59年8月9日判決)
▼ 事故発生の状況

 事故当日、母親X1は、水泳教室に参加したA(5歳女児)のほかにB(死亡、3歳女児)、C(8歳男児)を同伴して本件プールに赴き、Aに講習を受けさせる一方で、しばらくBを水に入れて遊んだりしたあと、Bに対しプールサイドでおとなしくしているように言いつけて、CにもBと一緒にるように命じたまま、自らは幼児グループとは別個に母親用コースで行われていた母親グループの水泳指導を受けていた。この間、Bは本件プールのほぼ南西角プールサイドの壁際に置いてあったベンチ付近で他の2歳くらいの女児やCと遊んでいた。
 母親X1は、講習を受けながらも、時々Bに手を振って合図をしたり、ベンチ付近を注意してBの存在を確認するなどしていたが、4時30分過ぎ頃、母親用コースの北西端あたりの水底に沈んでいるBが受講者の母親によって発見された。直ちに母親グループを指導していた講師がBを引き揚げ、プールサイドに寝かせてマウス・トゥ・マウスの方法により人工呼吸を施したうえ、間もなく到着した救急隊員にBを委ねた。Bはすぐさま救急車で病院に運ばれ医師の手当を受けたが、そのかいもなく同日午後8時50分死亡した。死因は溺死であった。
▼ 主催者の管理体制の瑕疵責任

 本件事故の責任について、原告はプールには安全性において、構造上の欠陥があったと主張したのに対して、裁判所は「本件プールに物的設備の面で営造物として通常備えるべき安全性に欠けるものがあるとの事実を認めるに足りる証拠はない」と、その主張を斥けたが、人的施設および管理体制に安全管理上欠陥があったと判決した。

1.入場に際しての確認と対応
 (受講しない幼児の入場を許可した責任)
 水泳教室の受講者である母親が、プール受付で受講者証を提示する段階において、定められたとおりの受講者の幼児1名だけを同行して参加しているか否かの確認を徹底し、もしそれ以外の幼児等をも同伴していた場合には、入場を拒否するか、入場を認めても教室への参加を拒否して見学を勧めるか、あるいは同伴した複数の幼児等への監視を怠らないよう母親に十分注意を与えたうえで一般の利用者として入場を認めるか、いずれにしても、漫然と教室への参加を認めることによって、母親から受講者以外の幼児に対してなされるべき監視の機会を奪ってしまう結果となるような措置をとることは厳に慎むべきである。

2.入場後の監視体制
 また、入場後においても、水泳教室を始める前に講師に自ら出席者の点呼をとらせるなどして、受講者以外の幼児を同伴していないかどうかを確認させ、同伴していた場合には教室への参加を拒否するなど前述と同様の対応をとるべきである。さらに監視にあたっている嘱託指導員には、プール槽の遊泳者のみならず、プールサイドの隅々にわたるまで監視の目を向けさせ、特に幼児等が一般用コースに近づくことのないよう注意を厳にさせることはもちろん、少なくとも本件のように幼児を対象とする水泳教室が実施されている場合には、他の嘱託員に応援を命ずるなどして監視体制の強化を図り、もって事故の発生を未然に防止すべきであったのに、市においてその監視体制が十分でなかったことは事実から明らかであるから、本件プールは営造物としての人的施設および管理体制において、その設置・管理に瑕疵があったというべきである。

▼ 過失相殺(母親の過失責任)

 裁判所は母親にも子供の安全管理に過失があったとして、過失相殺を6割として次のように判決した。
 「本件のように市民全体に対して開かれている福祉施設にあっては、利用者の安全確保は、まず利用者側のほうで配慮すべきが原則であり、利用者は、自ら監視することに困難を感じるような状況の存在が予想される場合には、監視を必要とする幼児等を本件プールに同伴することは、厳に慎まなければならない。Bは、事故当時3歳8カ月の危険回避能力のきわめて乏しい幼児であるから、母親は、自ら監視できないおそれがある場合は、プール内に配置された監視員による監視体制が整えられてあるからといって、安易にBを同伴すべきではなく、本件水泳教室に参加するについては、親戚・知人にBを預けるなり、同伴せざるを得ない場合には、Aだけを講習に参加させて、自らはBの監視に専念するなり、あるいは自ら講習に参加するのであれば他の適当な人にBの監視を依頼するなどの手段を講ずべきであった。」
▼ 本件事故の教訓

1.安全確保は、利用者自身で配慮するのが原則である。
2.同伴した幼児を放置していたのは母親の重大な過失である。
3.幼児同伴の水泳教室では主催者側の幼児の安全確保が重要である。