中学校の授業中(水泳)の溺死事故

 

事故責任と因果関係

▼ 事故と裁判の概要

 水泳授業で、プール(屋外、25m・6コース)においてクロールによる25mのタイム測定を実施したところ、中学2年生の男子生徒Aが2回目の測定のために飛び込んで泳ぎだした後、正常に泳いでいたが、ゴールの壁付近で突然けいれんしたような状態になり、壁にもたれるようにして水没した。ゴール付近で測定していた担当教諭が直ちに飛び込んでAをプールサイドに引き揚げ、脈と呼吸を確かめたが、呼吸はあったので、心臓マッサージを施すとともに生徒に命じ職員室に連絡させた。救急車が到着するまでの間、駆けつけた同僚教諭らの協力で人工呼吸および心臓マッサージを継続し、到着した救急車により病院に運ばれたが同日、病院において死亡した。解剖の結果、直接死因は「溺死」とされた。
 生徒Aの両親は、この事故は正規体育の授業中に、学校側ならびに担当教諭が注意義務を怠った過失によって生じたとして、国家賠償法第1条、民法第715条に基づき、市に対して、損害賠償を請求した。
 裁判所は担当教諭に過失がないとして請求を棄却した。
(神戸地裁 平成2年7月18日判決)
▼ 担当教諭の過失

1.安全配慮義務違反
 1回目の測定の疲労が十分回復しないまま泳がせたため溺死するに至ったとの原告の主張に対して、裁判所は、2回目の測定ため泳ぎ始めるまでにあまり時間がなかったことが認められるが、疲労により溺れたと認められる証拠はないうえに、Aの年齢、校内水泳大会で優勝したことがあることなどから、疲労を回復しないまま泳いだとは認められないとした。

2.監視義務違反
 原告は、水泳指導に関する資料を証拠に、「水泳場には監視台が必要で、全体の監視者をおかなければならないのに本件プールに監視台はなく、全体監視者もいなかったことは、発見を遅らせ溺死に至らしめた」と主張した。
 裁判所は、「担当教諭は目の前で溺れたAを直ちに引き揚げたのであり、仮に監視台や全体監視者があったとしても、発見がより早くなったと認めることはできない。監視台がなかったこととAの溺死との間には因果関係がない」とした。

3.救助体制整備義務違反
 原告は、「水泳の授業では常に事故が予測され、学校責任者および教師は事故に備えて迅速に救助できる体制を整えておく義務があるのに、本件中学校では連絡体系の相談、検討を全くしていない。そのため当日Aに対する救助担当者は指導にあたっていた担当教諭のみで、溺れた際に引き揚げる者も事故を職員室に連絡する者もいなかった。また、授業中、教師は水着着用の義務があったのに、担当教諭はトレパン、トレシャツ姿で指導にあたっていて直ちに水に入り泳ぐことができなかった」とし、救助体制の不備を主張した。
 裁判所は、「担当教諭がトレパン、トレシャツ姿であったこと、特別の救助体制を整えていなかったことは認められるが、それだからといって、本件中学校水泳授業の体制に落ち度があったということはできない。担当教諭は直ちにAを引き揚げ、学校からの救急官署への連絡も時間をおかずになされたのであるから、救急体制整備義務違反があったとの主張は失当である」とした。

4.救助義務違反
 原告は、「溺者の蘇生法が、気道確保、人工呼吸、心臓マッサージの順にすべきとされており、意識のない場合は直ちに気道確保を行わなければならないのに、担当教諭はAの状態を心臓まひと判断し、水を吸引したとは全く考えず、溺者を前に気道確保、人工呼吸をすることなく、心臓マッサージしかしなかった。これらの義務違反のためAを回復させることができずに死に至らせた」と主張した。
 裁判所は、「溺れた者に意識がなくても、呼吸をしていれば人工呼吸の必要がないことが認められ、教諭らの観察したところを総合検討すると、Aの呼吸が弱いながらも継続していることが確認されたものの、鼓動は確認できないほどに衰弱していたということができ、担当教諭がこれらの事情から判断して蘇生法の第1段階として心臓マッサージを選択したことは必ずしも不相当であったということはできず、かつ、突発事故におけるとっさの判断であることも考慮すると、担当教諭の蘇生法の実施につき過失があったということはできない」とした。

▼ 本件事故の教訓

1.授業としての水泳指導においても、緊急事態に対応できるように、事前に校医、消防署等に連絡しておくことも必要である。
2.学校全体として、救助法、心臓マッサージ等の技術は体育教諭だけでなく、全教師が身につけておくべきである。
3.指導教諭の水着着用、監視台の設置は反省点として、確認することが必要である。