私立幼稚園での水泳練習中の
溺死事故

 

指導管理体制の確立が重要

▼ 事故と裁判の概要

 大阪市内の私立幼稚園で、園児教育に水泳を採り入れており、縦(南北)25m、横(東西)7.2mの室内温水プールをロープで区切り、南側約3分の1の部分(水深調節ベンチで深さ50cm)を年中・年少組用に、その余りの部分を年長組用にあて、年中・年少組については4名の教諭が死亡園児Aを含め41名の園児を南側部分に入れ自由遊びをさせていたところ、Aが溺死した。
 Aの両親Xらは、幼稚園を経営する学校法人ならびに直接の指導担当教諭に対して、損害賠償を請求した。
 裁判所は指導教諭の過失を認め、学校法人Y1および指導教諭Y2に損害賠償の支払いを命じた。
(大阪地裁 昭和62年3月9日判決)
▼ 事故当日の指導状況

 本件プールは太陽熱を利用した室内温水プールで縦25m、横7.2m、深さ1〜1.1mであったが、底上げをするために主に南側3分の1部分に縦2m、横・高さ各50cmの水深調節ベンチが敷き詰められており、その部分の水深は50cm余であった。
 本件事故当日の昭和58年8月27日、水泳指導を受けた園児は年長組30名、年中組34名、年少組がAを含めて7名であり、年長組の指導に3名の教諭があたり、年中・年少組の指導には4名の教諭全員があたり、Aを含む年少組7名は特別に担任教諭Y2が担当していた。4名の教諭はいずれもプールの中にいた。そして4名は夏休みの水泳指導が始まる前に、4名がある程度の距離を保って監視する旨の申し合わせをしていたが、各自の監視場所、監視範囲等について具体的な協議をしていなかった。このようなわけで、一斉指導の間、4名はある程度の距離をおいていたものの、思い思いの場所で監視をしていた。また、本件プールの南側約3分の1の部分に41名の園児を同時に入れたので、プールの中は込み合っていた。
▼ 事故発生の状況

 午前10時から10時30分まで一斉指導が行われたが、10時45分からは自由遊びの時間帯となり、園児は各自ビート板やボールを使用するなどして遊んだ。その際1教諭がプールサイドで、他の3名がプールに入り園児を監視した。担任教諭Y2はプールに入り監視していたが、自己担任の園児1人がプールサイドのシャワー設備のところで泣いていたのを発見したので、他の教諭に声をかけないまま、園児をプールに入れるため同人のもとに行き、1〜2分後に同人を連れて元の場所に戻った。そして、同人にボールを渡して遊ばせたが、そのとき、先に近くでビート板を持って遊んでいたAの姿が見えないのに気づき、園児一人ひとりの顔を確かめながらプール内を探した。4、5分探し回ったとき、プールの南端から4.9m、末端から1.2mの地点に、手足を伸ばしうつぶせになって浮いている園児を発見した。担任教諭Y2は直ちに抱き上げてみるとAで、すでに意識不明、呼吸停止の状態にあった。Aは救急車で病院は運ばれ人工呼吸、心臓マッサージ等の蘇生術を受けたが、そのかいもなく死亡した。
 大阪医科大学法医学教室の剖検所見では、死因は急性ないし急性窒息死による溺死、他に死因となるような内蔵諸器官の病変や奇形等はなく、また外傷もなかったとされていた。同人は身長95cm年少組でも最も低い方に属し、水には慣れていたがビート板を持ってバタ足で進む程度で、泳ぐことはできなかった。
▼ 指導教諭の過失

 裁判所は判決の中で指導教諭の過失を次のように判示した。
 「被告学園では監視について具体的な検討、研究をした結果に基づいて実施していたものではなく、各人の監視能力、右能力に応じた監視可能園児数、右監視の各位置関係およびそこでの具体的監視法、ならびに監視者相互の緊密な連携保持法というような基本的事項についても、単に一般的になっていたにすぎず、このような事情はまた、対象者がAらのような3、4歳児で泳げない園児の場合、たとえ水に慣れ、ビート板につかまって泳いでいたとしても、不意にビート板から手が離れるなど不測の事態が発生すること、そのほとんどが、直ちに立ち上がることを考える余裕などなく、驚愕のあまり慌てふためき、ただ恐怖に駆られて水中でもがき、通常考えられる合理的行動に出ることを期待することは到底できず、このため生命の危険率がきわめて高いことは、専門家たる被告らが熟知するところである。
 したがって、監視者としては事故防止のためいささかの気の緩みも許されない厳しい心構え、使命感を持ってその実行に遺漏のないよう期すべきであったにもかかわらず、被告らの知識が抽象的、観念的なものにとどまっていたことと軌を一にすること、そして、これらのことは、Aを自己の監視下においていた被告担任Y2が「他の監視者の誰にも声をかけずにその場を離れ、またプールサイドにいた他の監視者らのいずれもがY2およびY2の監視下にあった園児らに対して注意を払わず、Y2が意識不明のAを抱き上げて急を知らせるまで、Aの行動に全く気づいていないことに明瞭に現れているといえるのである。
 以上の事実によると、本件事故は担当教諭Y2ら4教諭の過失により事故を防止できなかったものである。すなわち同被告らは過失に基づく共同不法行為者としての責を免れない。」
▼ 誠意ある事故処理

 原告の請求理由の中に、「被告学園の原告らに対する対応は、誠意に欠けるものであった」とある。この種の事故は対応の状況が適切であれば、平和的に解決する些細な配慮の不足から深刻な感情の対立となり、訴訟によって解決しなければならない結果になる。それには誠意ある言動はもとより、再び事故を起こさないための積極的な安全対策の再検討をするとともに、保険等の適切な補償体制を確立しておき、この面からも遺族から誠意をくみとってもらう心構えが必要であり、何よりも平素から、事故防止に最大の努力を払うと同時に、学園と父母らとの心の通う人間関係を確立しておくのが第一である。
▼ 本件事故の教訓

1.園児の水泳指導には、教師の細心の安全配慮が必要である。
2.各教師は、指導にあたるうえで自分の責任を強く自覚する必要がある。
3.プール施設のあり方、特に簡易プールでは水質管理が重要である。