民間会社が経営するスイミング教室に
おける子供同士の事故と会社の賠償責任

 

責任無能力者の監督義務者の責任

▼ 事故と裁判の概要

 昭和58年6月2日、株式会社Y1が経営するスイミング教室で、Y2の次男A(当時5歳)が原告X(当時7歳)の水中メガネを手で引っ張り、離したため、Xは右眼に傷害を負い、失明状態となった。
 この事故についてXは、Y1に対し、安全配慮義務違反等を理由として、またスイミング教室の総括責任者Y4に対し、民法第714条第2項の代理監督者責任等を理由とし、加害者Aの両親Y2、Y3等に対し、民法第714条第1項の監督責任を理由として損害賠償を請求した。
 裁判所は被告Y1社に対しては、安全配慮義務違反があるとし、加害者Aの両親Y2、Y3に対しては子供に対する監督義務の違反を理由として損害賠償責任を認定したが、スイミング教室の総括責任者Y4には責任なしと判決された。
▼ スイミング教室を経営する会社Y1の安全配慮義務

 裁判所は被告会社Y1の責任を、次のように判決した。
 「スイミング教室を経営する者は、自己が管理するプールにおいて生徒の生命、健康に危害が生じないよう、物的・人的環境を整備し、生徒の生命、健康を保護すべき契約上の義務を負う」とし、「原告X、および加害者Aは7歳と5歳であるが、口頭で他人の水中メガネを引っ張ると水中メガネが手から放れて目に当たったりすると危険であると注意されれば、他人の手中メガネを引っ張るようなことが危険であること、引っ張ってはいけないことの理解はできる年齢である。そのような注意がなされていれば、Aも原告Xの水中メガネを無理に引っ張らなかった可能性が強いと考えられる。そうであれば、本件は発生しなかったものである。したがって、被告会社Y1には口頭で原告やAらの生徒に他人の水中メガネを引っ張らないように注意する義務があったといえる。」
▼ 加害者Aの両親の監督義務違反

 Aは被害者Xの水中メガネの曇りを洗ってやるという親切心から本件水中メガネを引っ張ったのであり、その引っ張り方も強烈なものではないから、Aが本件水中メガネを引っ張った行為は違法性を欠くと被告両親Y2、Y3は主張したが、裁判所はそれを否定して、次のように判決した。
 「親切心からであっても危険な行為である以上違法性があり、本件傷害が発生した行為であるから、その詳細は不明であるがやはり危険な行為であったと推認される。Aは本件当時5歳であり、責任無能力者と認められる。民法第714条第1項の監督義務は一般的監督義務であり、責任無能力者が違法な加害行為を行った場合には反対の証拠がない限り監督義務者はその監督を十分に尽くさなかったものと推認される。本件全証拠によると被告両親Y2、Y3両名の監督義務違反が認められる。」
▼ 総括責任者Y4の責任なしとした理由

 本件スイミング教室はコーチ、アシスタントコーチを含めて通常8名程度の指導監視員が生徒の指導にあたり、Y4が直接生徒の指導監視をする必要も認められないし、Y4が実際に指導監視にあたったことも認められないから、被告Y4の監督者または代理監督者責任は認められない。
▼ 本件事故の教訓

1.幼児を対象とするスポーツクラブでは、保護者にも安全について協力を依頼することが必要である。
2.指導員は、スポーツ活動以外の生徒の行動についても配慮が必要である。
3.水中メガネのような水泳関連用品の事故については、PL法に関する対応を想定しておくことも必要である。