県立高校の水泳部員が市民体育館内の室内プール
でスタートの練習中に頸髄損傷を負った事故

 

指導上の過失と施設の瑕疵

▼ 事故と裁判の概要

 Y1県立高校2年生の水泳部員Xが、Y2市の市民体育館内の温水プールで逆飛び込みによるスタートダッシュの練習中、プールのそこに頭部を打ち頸髄損傷を負った。Xとその両親は、Y2市に対してはプール施設の瑕疵を理由として国家賠償法第2条第1項により、Y1県に対しては国家賠償法第1条ならびに在学契約(Xに学校教育を受けさせることを目的とする契約)に基づく安全保護義務違反により総額2億900万円の損害賠償を請求した。
 裁判所は、Y2市に対しては施設の瑕疵責任、Y1県に対しては指導教諭の過失を認定して、在学契約に基づく安全保護義務違反ならびに国家賠償法第1条による責任をも認め、Xの過失割合を2割と認定して総額1億900万円余の損害賠償の支払いを命じた。(浦和地裁 平成5年4月23日判決)
 これに対してY1県、Y2市は東京高裁に控訴したが平成7年2月21日、1億750万円(県8,600万円・市2,150万円)で和解が成立した。
(東京高裁 平成7年2月21日和解)
▼ 指導教諭の安全保護義務違反

 指導教諭の安全保護義務違反について裁判所は、次のように認定した。
 指導教諭Aは水泳が飛び込みによる重大事故発生の危険な一面を有し、このような重大事故が水泳の熟練者に発生することも少なくなく、このようなことについての一般的知識を有していた。
 本件プールが高校生以上の者がスタート台から逆飛び込みをした場合、頭部等をプールの底に接触する事故を起こす危険性が高いにもかかわらず、これらの者に対し飛び込みを制限していないという点で過失があった。本件プールはスタート台直下の水深が本件高校のプールよりも満水時で25cm浅く、本件プールでのスタートダッシュの練習は昭和60年のシーズンオフに入ってから初めてであったことなどを考慮すれば、A教諭には本件事故発生について予見可能性があったものといわざるを得ない。
 本件事故当時、競技大会を目前に控えていたわけではないのであるから、A教諭としては、本件事故当日に危険性の高い本件プールでのスタートダッシュの練習は、これを避けるのが相当であり、仮に、この段階でどうしてもスタートダッシュの練習が必要であると判断したとしても、本件プールと自校のプールの水深の差異に思いをいたし、スタートダッシュの練習を始めるにあたって、水泳部員に対し、各部員の技量、経験の度合いに応じ入水角度が大きくならない適切な飛び込み方法を具体的に指導すべき注意義務があったというべきである。
▼ 本件プールの設置・管理の瑕疵

 本件プールは事故当時満水の状態でなかったことを考慮すると、高校生を対象とする限り日本水泳連盟の定めるいかなる基準にも合致しないうえ、その基準も絶対的に安全な基準でないこと、文部省の定める基準では高等学校・大学プールとしては水深が最低1.2m必要とされていること、本件事故発生までの間に飛び込みによる頸椎・頸髄損傷という重大事故が発生していることに鑑み、このような事故を防止する努力が、日本水泳連盟を中心に行われていたこと等を総合すると、本件プールはそのスタート台から大人と同程度の体格を有する高校生が逆飛び込みを行った場合、水深が十分であるとはいえないために、ことさら危険な飛び込み方法でなくても、飛び込みの角度が少し深くなるとか、指先の反らし具合等、その方法のいかんによっては、頭部等をプールの底に打ちつける危険性があったとは否定できない。
 そうすると、本件プールは、高校生の利用者に対し、少なくともスタート台から逆飛び込みを全く制限せず利用することを前提とする施設としては、瑕疵がったものといわざるを得ない。
 なおこの点に関しY2市は、@本件プールにおいてY2市水泳大会、Y2市ジュニア水泳大会等が開催され、その際には逆飛び込みが行われていた、AY1県内の他の室内温水プールでも同様の水深であり、そこでも逆飛び込みが行われていたと主張したのに対して、判決は、「@に対しては、幸いにもそれまで本件事故のような重大事故が発生するに至らなかったものと考えるのが自然であり、右のことから本件プールが安全であったとはいえない。Aについては、プールの安全性を判断するにあたっては、プールの水深だけではなく、飛び込み台の高さ、利用者の状況等の諸事情を考慮しなければならないものであるから、Y1県内の他の室内プールについて、このような諸事情について詳細が明らかにされていない以上、本件プールの安全性を判断するにあたり的確な資料とはなり得ない」として、Y2市の主張を斥けた。
▼ Xの自己過失

 @Xは小学校6年生当時スイミングスクールに約10カ月間所属し、本件高校水泳部の中でも水泳は飛び込みを含めて得意な選手であった。
 AA教諭からかねてよりスタートの際は遠くへ飛び込むよう指示を受けていた。
 B本件事故当時高校2年生として、逆飛び込みの際プールの底に頭部を強打すれば相当重大な結果を生じかねないことについて弁識能力を有していた。
 CXは本件プールより構造上25cm水深が深い高校のプールで、飛び込みをした際水底に頭部が着きそうになったことがあり、実際に足を擦りむいたこともあったことが認められ、このような事実に同人の弁識能力とを併せ考えると、A教諭から逆飛び込みの際には遠くへ飛び込むようにとの指示の真の意味を理解できたものというべきである。
 D本件事故当時有していた同人の技量からすれば、逆飛び込みをするにあたって、入水角度が大きくならないように遠くへ飛び込み、入水後深く潜らないで上へ上がれるような体勢および手首の返しをするなどして、自分の意志で飛び込んだ際の到達深度を相当程度調節することが可能であると認められる。
 以上のXの過失と本件事故の全事実関係、本件プールの瑕疵、A教諭の安全保護義務違反の内容等を勘案して、裁判所はXの過失割合を2割と認定した。
▼ 本件事故の教訓

1.最近のスタート事故の実態を詳細に検討し、教員だけでなく、生徒自身にもその危険性を十分理解させておくこと。
2.通常利用しているプールと異なるプールで練習する場合に、特にその構造について皆が理解しておくこと。
3.スタート台の利用については、すべての入場者に安全確保を徹底し、一般開放では利用を禁止するか、特別の場合以外は取り外しておくことも必要である。