公営プールで水泳指導員をしていた
高校生のタイマー感電死事故

 

PL法関連事故

▼ 事故と裁判の概要

 市の設置したプールの一部を専用使用することを認められていた水泳クラブで、サブコーチとして雇用され、会員(小・中学生)の水泳指導にあたっていた高校生が、プールサイドに置いてあったクラブ所有のタイム測定用電気時計(タイマー)を移動させようとして、タイマーからの漏電により感電死した。
 死亡した高校生の両親が、水泳クラブの代表者とタイマーを製造した会社ならびにプールの設置者である市に対して損害賠償を請求した。
 第一審の大阪地裁はそれぞれの過失責任を認定して損害賠償の支払いを命じた。この判決に対して、クラブの代表者ならびにタイマーの製造会社との間に和解が成立したが、市はこの判決を不服として、大阪高裁に控訴した。控訴審において裁判所は控訴人(市)の請求を認め、第一審判決を覆して、本件事故について市にはプールの管理・運営上の責任はないとして、原告の請求を棄却した。
 原告は最高裁に上告したが、最高裁は上告棄却の判決をした。
 本稿では、控訴審判決を中心として事故責任を検討する。
 最近、公営プールを使用して水泳指導をするクラブや、水泳協会が専用使用するケースが多くあり、社会体育の振興という点からは意義あることであるが、事故に際しての責任を利用契約の際明確にしておく必要がある。特に、団体、クラブ等の法的責任の主体が明確でない場合、損害賠償をめぐって深刻な問題となり、本件のように公営プールの場合、設置者である地方公共団体が損害賠償を請求されることになる場合がありうる。社会体育はあくまで住民の自主的活動であり、地方公共団体はそれを指導・助言はするが、監督・統制はしないと社会教育法は規定しており、その直接的責任は活動者自身が負わなければならないのが原則である。このような活動をする団体にとって参考になる事故判例である。
(大阪高裁 昭和60年6月26日判決)
(最高裁 昭和61年7月18日判決)
▼ 水泳クラブの組織・運営と市の関係

 本件市では昭和37年頃市民に水泳を普及し、その水準の向上を目指すことなどを目的とする市水泳連盟が結成され、同連盟は市体育協会に加盟していたが、同40年頃クラブが結成され、クラブ役員はこの連盟の役員を主体として、クラブはこの連盟の唯一の加入団体で、この連盟とクラブの事務所はいずれも各規定上本件プールと定められていた。
 クラブは、市民の水泳技術とその基準の向上、青少年の心身の錬磨等をその目的として掲げ、その主たる活動は毎年夏期の一定期間、小・中学生を中心とするクラブ会員に対し水泳指導を行い、競泳選手の育成を目指していた。クラブ会員は毎期市内の小・中学生から募集し、市発行の広報誌にクラブの活動状況からこの会員募集の記事が掲載されることもあった。クラブ運営の費用は主としてクラブ会員から徴収する会費、およびクラブ会員父兄有志からの寄付で賄ってきた。クラブの役員は、無報酬の会長、副会長、顧問、総監督、主任コーチ、専任コーチ、コーチ(サブコーチとも呼ばれる)からなり、この役員は水泳の熟練者であり、被害者は昭和52年にクラブのコーチ(サブコーチ)に選任された。
 市が設置した本件プールは、教育委員会が維持・管理にあたり、教育委員会は、クラブからの申し出により、市民プール条例、同条例施行規則に従い毎年夏期プール開設期間、クラブに対し本件プールの一部につき専用使用許可を与えていたが、その許可に際し、専用使用中におけるクラブ員の事故についてはクラブにおいて措置するとの条件を付していた。また、教育委員会は、クラブが自主的なスポーツ団体で、社会教育法第10条所定の社会教育関係団体であると認めて、条例第10条、条例施行規則第9条第1項第3号に基づきクラブの専用使用につき使用料を免除していた。
 クラブは、この専用使用許可に基づき、本件プール内の競技用プールの、3ないし5コースを専用使用して、主としてこのコーチの指導でクラブ会員に対する水泳指導を行っていたが、これについてはプール管理者の監視、監督外におかれ、クラブ役員がその責任において自主的に行っていた。
▼ プール管理者の注意義務違反と市の責任

 被害者の両親(原告)は、本件プールの維持・管理にあたっていた教育委員会の担当者またはプールの管理者は、本件タイマーを調査・点検し、安全を確認したうえでクラブに対し使用を許すべきであり、本件事故はこの担当者・管理者の過失により生じたものであるから市は国家賠償法第1条、民法第715条により責任があると主張したのに対し、裁判所は次のように責任なしと判決した。
 「クラブは、その組織と活動の態様からして本件プールにおける水泳指導については自主的管理能力を有するものと認められ、クラブ員に対する事故についてはクラブの責任で措置することを条件に本件プールの専用許可を得ていることからしても、その専用使用による水泳指導を行う限度においては教育委員会の管理権の範囲外というべく、本件タイマーがクラブの所有、管理にかかるものであり、本件プールの設備であるとかプールと一体になっているものでない。本件事故当時においてはクラブが右水泳指導に本件タイマーを使用していたのであるから、本件タイマーの使用に関しても教育委員会の管理権は及ばなかったというべきである。
 もっとも教育委員会あるいはその担当者ないし管理者において、クラブが本件プールの使用目的に反するような用法あるいは一見して不相当、危険であると知りうる方法ないし用具を用いるような場合においては、プールという営造物の性質からして、これにより発生する危険を防止するための措置をとるべき義務の存在までも否定することはできないけれども、本件タイマーがプールサイドで使用されていること自体危険というべきものではなく、アースをとることなく使用することに危険が存在したとしても、それは一見して危険なものと認めうるものでもない。水泳の熟練者である監督、コーチが指導にあたってクラブの自主管理下に本件プールおよび本件タイマーが通常の用法に従って使用されていることに対して、教育委員会担当者や管理者において右タイマー使用による危険を防止すべき注意義務を負担するものとすることは相当でない。
 本件事故は本件タイマーが本件プールにおいてクラブの自主管理下に使用されていた際にクラブ員について発生したものであり、事故発生当時の本件タイマーの使用状態に特段異とすべき状況も認められないのであるから、教育委員会の権限およびプール管理者の義務内容からして、右の者らにおいて被害者の両親らが主張するような本件タイマーに対する調査、点検、安全確認の注意義務懈怠による過失の存在を認めることは相当でない。」
▼ クラブに対する便宜供与と市の事故責任

 市や教育委員会が前述のように、クラブに種々の便宜を与えていたことから、市はクラブに対し公務を委嘱していたことになるので本件事故につき責任があると原告が主張したのに対し、裁判所はこれを否定して次のように判決した。
 「クラブの目的、組織および活動からして、クラブは社会教育法にいう社会教育団体(同法第2条、第10条)というべく、市の教育委員会においてもクラブを右団体と認めたうえ本件プールの無料使用その他クラブの社会教育活動に対する援助を与えていたものであって、これは同法第5条、第11条等に規定する援助等にあたるものと認められる。
 そして、社会教育関係団体は自主性が尊重され、地方公共団体は、社会教育関係団体に対して、いかなる方法によっても支配、干渉を加えてはならず(同法第11条)、また命令・監督をしてはならない(同法第9条)のであって、本件においてもしないし教育委員会が右規定に反してクラブに対して命令・監督その他クラブの組織、活動に対して干渉をなしたと認めうる証拠はない。
 市のクラブに対する本件プールの無料使用その他の援助は社会教育法に基づくものであって、市がクラブに対して教育ないし福祉行政の一部を委嘱したとか、クラブを指揮・監督していたと認められないのであるから原告の主張もまた採用するに由ないところである。」
 高裁判決に対し、原告は上告したが、最高裁は上告を棄却した。
▼ 本件事故の教訓

1.社会教育活動は地域住民の自主的活動であって、事故責任も住民自身が負わなければならない。
2.社会教育活動に関しては、地方公共団体は指導、助言は行うが、監督・統制はしないのが原則である。
3.備品、用具の欠陥による事故については、PL法に関連して、賠償責任を製造・販売業者に請求することができるよう配慮しておくことが必要である。