高校生登山中落石死亡事故2/3
(神戸地裁 平成4年3月23日判決、棄却、控訴、判例時報1444号、114頁)
東京女子体育大学助教授
入澤 充
2.事件の争点
○安全配慮義務違反と注意義務違反について
被害生徒の両親は、本件事故は在学契約関係における事故であり、学校側は学校生活、学校教育活動上、生徒の生命、身体等に不測の損害が生じないように万全の注意を払い、諸々の危険から生徒の安全を保持すべき安全配慮義務を有していた。にもかかわらず、登山計画におけるコースの指定及び実施運営に関して教職員の十分な指導監督が尽くされておらず、被害生徒らは落石の多い危険なコースを降雨後という悪条件下でしかも指導監督者が付かないで登山をした結果本件事故に遭遇したものであるから、本件事故は学校側の安全配慮義務違反によって発生したものである、と主張した。
また、クラス担任は自己のクラス生徒らが指定外のコースを登山しようとしていることを知ったならば、指定外コースによる登山は禁止するよう厳重に指導監督する職務上の注意義務がある、と主張した。
○使用者責任について
さらに被害生徒の両親は、本件登山が学校行事として行われる以上、指定外コースについても事前に踏破するなど十分な調査をすべきであり、調査をしておれば落石等の危険性についても容易に知ることができた。そして教諭は生徒を危険から守るため調査をし、登山を止めるよう指導監督すべき注意義務があるにもかかわらずそれを怠った過失がある。本件事故は教諭の不作為による結果発生したものである。その教諭に対して校長は代理監督者として指導監督すべき地位にありながら適切な指導監督義務を怠り、指定外コースの登山をさせた過失があり、本件事故は校長の不作為の結果発生したものである。
したがって、学校法人は教諭、校長の使用者として民法715条1項の規定に基づき、教諭、校長の不法行為に対して損害賠償の責任がある、と主張した。
3.裁判所はどのように判断したか
○注意義務について
灘高校は在学契約に付随する信義則上の義務として、本件登山に参加する生徒の生命・身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている。本件登山は、校外行事の一環として実施したものであるが、心身発達の程度が一般に成人のそれにほぼ匹敵するに至ることは経験則に照らして明らかである高校3年生には、自己の行為について自主的な判断で責任を持った行動をとることを期待することができる。したがって同校教職員としては生徒がそのような能力を有することを前提とした適切な注意と監督をすれば足りる。このような能力を有している生徒が通常の自主的判断、行動をしてもなお生命、人体等に危険を生じるような事故が発生することを予測することが可能であるような特段の事情がない限り、教職員は生徒の行動について逐一指導監督する義務はない。
○安全配慮義務について
灘高校の教育方針など事実を総合して、本件登山計画の策定、実施に関し、指定した各登山コースを生徒が登山する際に発生することが予想される生徒の生命及び身体等に対する各種の危険につき、事前に十分検討し、同校3年生徒の一般的能力に応じた適切な計画をたてたものと認めることができる。ゆえに本件登山計画に関して生徒に対する安全配慮義務は尽くされていたと認めるのが相当である。
○使用者責任について
原告は、学校側は生徒らが届け出たコースと同じコースを登山したか否か、班ごとに統制ある行動が取られたか否か等についてチェックする措置を講ずべきであり、かつ各コースにつき事前に下見をするなどしてその状況を把握すべき義務があったというが、要所要所で通過する生徒の行動を逐一監視したりすることは各コースの実状に照らして事実上困難である。本件登山は生徒の自主性を尊重して計画された班別自主登山という性格を持ち、学校側が生徒の行動に関して警戒の目を光らせて監視することは、自主的団体行動をとらせることにより同時に自律的な責任観念を養成しようとしたこの行事の本来的目的から大きく乖離し、教育上の配慮から不適当である。
本件事故は指定外のコースを被害生徒らが自主的に選んだコースで起きたものであり、そのコースの事前調査義務は認めることはできない。また、教諭は個人的にコースの変更の事実を知っていたものの、本件事故の発生を具体的に予見することはできず、予見しなかったことに過失はない。したがって教諭及び校長に主観的要件の充足が認められないので不法行為責任を問うことはできないから、その存在を前提とする使用者責任はない。
<次回に続く:判決から学ぶ注意事項> |