スキー滑降コースでの対人衝突事故の過失責任
「スキー滑降コースでの対人衝突事故」2/3
(東京地裁、平成7年3月3日判決 損害賠償請求事件、判例時報1560号114頁)
福井大学教育学部
助教授 水沢 利栄
2.当事者はどのように主張したか
<原告Xの主張>
【前方の安全を確認して速度を加減して滑走すべきであった】
スキー熟練者のYは、Cコースは初級・中級者用のコースであり、特に前方に注意し、速度を加減するなど安全に滑走する注意義務があるにも関わらず、相当な速度で滑走したため早期にXを発見することができなかった。斜度の変わり目付近でその先の斜面の状況を見ることができなかったなら、手前で一旦停止して斜面の安全を確認すべきであったのに、これを怠り漫然としてそのままで滑走し、ジャンプして、事故を起こした。
<被告Yの主張>
【事故はゲレンデを整備しなかったスキー場と危険な所に立っていたXの責任である】
@Cコースは初級・中級者用でありながらダウンヒルレースの大会で使用したプレジャンプの段差を放置したままにして一般スキーヤーに開放された。段差があるままのコースは、予測できないコースの設定状況となっていたものであり、そのことにより事故は引き起こされた。事故は、ゲレンデの整備の不備が原因であり、スキー場の責任である。
A斜面の変わり目地点の見通しの悪い危険な箇所にXが立ち止まっていたことが衝突事故を起こした原因である。
3.裁判所はこの事故をどのように判断したか
<裁判所の判断>
【減速措置をとらなかったYに過失あり】
Yは、斜面の変わり目段差に進入するに当たり、減速を指示する黄色の標識も立てられており、十分に減速すべきであったにも関わらず、標識の存在に気づかずそのまま滑走した。しかも段差先端の斜面の変わり目があることをその手前約30メートルで気づき、その下を見通すことができなかったのであるから、より早い段階で減速すべきであった。斜面の変わり目の手前約5メートルになってようやく減速したため、十分減速することができずにそのままジャンプする事になり、Xに衝突したもので、十分に減速措置をとらなかったYに過失があるものというべきである。
本件スキーコースが初・中級者用であり、Yより遅い速度で滑っているスキーヤーが斜面の変わり目の下に存在することは予想できた。見通しが悪いにもかかわらず、Yがかなり速い速度で滑走してジャンプというコントロールが困難な体勢で滑り降りたことが本件の原因であるというべきである。
【プレジャンプ台を残していたスキー場の責任はなし】
段差上からその先端の斜面の変わり目の下は、積雪がない状態においても見通すことができないものであり、また、プレジャンプ台がなくても、Yらの滑走速度であれば斜面の変わり目でジャンプしたものと考えられる。したがって、Yの主張するように、レース後もプレジャンプ台を放置したことが本件事故の原因とはいえない。
ダウンヒルレースが終了後まもなく一般開放されたことを知っていたのであるから、プレジャンプ台があることも十分認識していたものというべきであり、そのようなプレジャンプ台があり、その下の状況が分からなかったのであればなおさら減速すべきであった。
そうすると、被告Y主張のゲレンデ整備の瑕疵をもって、責任を免れることはできない。
【立ち止まっていたXの過失は3割】
Xが事故当時立っていた位置は幅10メートルのコース上で、段差の下方であって、段差手前から見通すことができない位置であった。Xは一旦停止していた位置では後続スキーヤーが降りてくるので危険と思い、衝突が避けられると判断した位置に移動したことが認められるがその位置でも見通しの利かない位置であり、決して十分な回避措置をとったとはいえない。しかも、Xはコースの右端を向いて上方への注意を怠り、サングラスを拭いたものであり、そのような行動をとるときは、後続者との衝突を避けるため、コース脇まで移動すべきであった。この点においてXにも過失があっ
たというべきであり、以上の認定の状況に照らし、その過失割合は三割とするのが相当である。
<次回に続く:解説と問題点の整理> |