ゴルフ練習場で、テイクバック中のクラブが
隣接する打席の練習者にあたった事故
「ゴルフ練習場での負傷事件」3/3
(静岡地裁、平成7年3月10日判決 損害賠償請求事件、判例時報1554号130頁)
弁護士 望月 浩一郎
3.本判決の解説と問題点の整理
1) ゴルフでの事故判例の概要
公刊集に掲載されたゴルフに関係する事故判例の中で、打球が他者にあたった事故が11件、クラブが他者にあたった事故が7件であり、全事故判例22件の大半を占めている。
スイング中のクラブが他者にあたる事故の発生場所では、本件と同じくゴルフ練習場(東京地判平成2年9月19日判例タイムズ756号233頁、東京地八王子支判平成1年2月1日判例タイムズ709号215頁、千葉地判昭和46年10月29日判例時報657号78頁)、ゴルフ場のティーグランド上(神戸地判平成5年9月23日判例タイムズ840号172頁)、路上(大阪地判昭和63年3月10日判例時報1275号84頁)、庭先(東京地判昭和36年7月31日判例タイムズ126号67頁)等である。
2) Y1(ゴルフ練習場)の責任
ゴルフ練習場は土地工作物である。ゴルフ練習場が本来備えているべき性質や設備(通常有すべき安全性)を欠いている場合には瑕疵があると認められ、土地工作物の占有者あるいは所有者は、土地工作物責任(民法717条)に基づき、瑕疵と相当因果関係ある損害について賠償義務を負う。
ゴルフ練習場における通常有すべき安全性とは社会通念によって定まるが、
@ 当該打席を利用している練習者以外の者が当該打席内に容易に入ることがないよう区画されていること、
A 練習者が、通常スイングを意図してクラブを振る限り、意図したスイングと多少異なったものとなったとしても、当該打席外にいる他者に危害を加えることがないような設備・構造であること、
で足りるというべきである。
千葉地判昭和46年10月29日判例時報657号78頁は、自動打球セット機がなく練習者が自らティーアップするゴルフ練習場の事案であるが、打席間隔2.3mでティーアップ時に隣席練習者のクラブヘッドが衝突する可能性を肯定し、ゴルフ練習場の設置管理の瑕疵を肯定している。一方、本判決では、打席間隔は2.38mで「隣接する打席内に立ってセット機に正面からボールを注ぎ込んでいたとしても振ったクラブが当たるおそれはないものと認められる」と逆の判断をしている。
事実認定の問題ではあるが、
@ クラブの要因−クラブが長いとスイング半径が大きくなると同時に軌道もよりフラットになること(近時長いクラブが多く使用されており、45インチ(114.3p)以上のクラブもまれではない)、
A 打球を置く位置の要因−フェアウエーウッドの練習においては、アイアンマットを使用するため、練習者がより後部側の打席に近い位置でスイングすること、
B 練習者体格の要因−身長・腕の長さによりクラブヘッドの軌道は異なること、
C スイング型の要因−フラットなスイング軌道の場合には、スタンス位置はボールを置く位置からより遠くなり(後部打席側に近づく)、スイング軌道が水平に近づくことで、水平面でのスイング軌道は大きくなること、などの諸要因を十分に検討して安全性が検討されなければならない。
本件においては、自らの打席内でセット機にボールを注ぐ場合には、隣席の練習者のクラブヘッドがあたることはないとの事実認定がなされている。それでは、なぜ本件事故は生じたのか。Xは、Y2が「相当な疲労状態」から「テイクバックにつられて足が定位置から右後方に外れたり、腰がぐらついたり、上体が揺れる等の現象」が生じる「特異な軌道のスイング」であったと主張したが、本判決は、XはY2打席の後方付近で倒れ込んでいた事実などから「Xはその理由は定かではないが、Y2打席内に入り込んでいた」のが原因であると認定した。
本来備えているべき性質や設備(通常有すべき安全性)を欠いている場合には土地工作物責任が肯定されるが、本件においては、
@ 所定の位置で通常のスイングをする限り、隣席打席内にクラブヘッドは入らないこと、
A 「通常の弁識能力を有するものであるならば、その技術レベルの程度如何にかかわらず、本件練習場の各打席の区分を認識し、かつその打席内で練習中のものに不用意に近寄ることの危険性は十分認識し得る」こと、から通常有すべき安全性に欠けることはないとして、土地工作物責任を否定した。
3) Y2(隣席の練習者)の責任
一般的には、事故の防止義務は、当該事故を引き起こす危険性を作り出した者にあり、クラブを振る者は、クラブを振ることにより生じる危険が現実化することを防止する義務がある。道路上など、本来クラブを振ることが予定されていない場所で、かつ当該場所には誰もが立ち入ることができる場合には、クラブを振る者は、「素振りを行う前に周囲の状況殊に接近して来る通行人の有無について十分注意を払い、通行人にゴルフクラブが当たる危険があると認められるときには直ちに素振りを中止して通行人に道を譲り、かような危険がないことを確認したうえで初めて素振りを行うべき注意義務が存する」(大阪地判昭和63年3月10日判例時報1275号84頁)。
しかし、本件は、
@ 各打席は他の打席、通路と明確に区分され、
A クラブを振る場所もスタンスマットの存在により指定されており、
B 練習者がその打席内の定められたスタンスマット上の位置でクラブを振る限り隣接する打席内に振ったクラブが入り込まない構造となっており、
C 通常の弁識能力を有するものであるならば、その技術レベルの程度如何にかかわらず、
本件練習場の各打席の区分を認識し、かつその打席内で練習中のものに不用意に近寄ることの危険性は十分認識し得る、などの条件下に発生しており、本練習場の打席内でスタンスマット上に立って普通にクラブを振る練習者にとって、右打席内の空間は、独占的、かつ排他的に右練習者に与えられ、不用意に第三者が入り込んでくることは予想できず、したがって、かかる練習者は、特段の事情がない限り、周囲の安全を一々確認する義務を要求されるものではないというべきである。
スポーツをプレーすることで他者に対する危険を作り出す場合において、その環境に応じて、プレーする者の注意義務が異なることを示している判例である。
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