ゴルフ練習場で、テイクバック中のクラブが
隣接する打席の練習者にあたった事故
「ゴルフ練習場での負傷事件」2/3
(静岡地裁、平成7年3月10日判決 損害賠償請求事件、判例時報1554号130頁)
弁護士 望月 浩一郎
2.当事者の主張に対し裁判所はどのように判断したか
1) Y1(ゴルフ練習場)の責任
Xは、Y1の責任について、セット機にボールを入れている者に、隣接する打席の練習者のクラブが当たる危険性があるとして、本練習場管理運営者であるY1は、
@ 打席間の間隔が十分でなく、防御網等の保安設備を設置していない設置・保存の瑕疵(民法715条)、
A 監視員を置くなどの安全に配慮する義務違反(民法415条)、があると主張した。
これに対し、本判決は、
@ 「本件練習場の打席において、本来予定されているスタンスマット上の円内に足を定めてティアップ用ないしアイアン用マット上のボールを打つ限り、隣接する打席内にその振ったクラブが入り込まない」との事実を認定して、設置・保存の瑕疵を否定し、
A 「Y1において、練習者が、自己の打席内から、他の打席の練習者が打撃練習を行っている打席内に不用意に入り込むといった事態までも予想して、危険の生ずることを防止するために監視員を置く義務があるとは認められない」
といずれの責任も否定した。
2) Y2(隣席の練習者)の責任
Xは、Y2の責任について、
@ アイアンマットで3番ウッドクラブを使う時は、より隣接打席に近い軌道となり、
A 本件事故当日100球以上の打撃練習をしており、満60歳というその年齢をも考慮する
と相当な疲労状態にあり、テイクバックにつられて足が定位置から右後方に外れたり、腰がぐらついたり、上体が揺れる等の現象が生じやすくなる、という事情下では、「Y2は、後方の打席のXがボールをセット機に入れる際の動静に注意し、振ったクラブが衝突する等の事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然とクラブを振った過失(民法709条)」を主張した。
本判決では、Y1の責任を否定し、その理由を次のとおり判示した。
@ 「クラブを振ろうとするものは、後方を含め周囲の状況に十分注意を払い安全を確認したうえで、右行為をなすべき義務があることはもちろんであるが、右注意義務の程度は、如何なる場所においても常に一律に要求されていると解すべきものではなく、クラブを振る四囲の状況如何によってはその程度を異にする余地のあるものというべきである」
A 本件練習場の「各打席は明確に他の打席と区分され」、「本件練習場では練習者がその打席内の定められたスタンスマット上の位置でクラブを振る限り隣接する打席内に振ったクラブが入り込まないだけの距離をもって設置され」、「利用者においても何ら危険を感じない施設、設備状況にあり」、「通常の弁識能力を有するものであるならば、その技術レベルの程度如何にかかわらず、本件練習場の各打席の区分を認識し、かつその打席内で練習中のものに不用意に近寄ることの危険性は十分認識し得るものというべきであって、仮に、隣の打席内に入る必要性がある場合は、その入る練習者において相応の注意をなすべき義務があるというべきである」
B 「少なくとも本件練習場の打席内でスタンスマット上に立って普通にクラブを振る練習者にとって、右打席内の空間は、独占的、かつ排他的に右練習者に与えられ、不用意に第三者が入り込んでくることは予想できず、したがって、かかる練習者は、特段の事情がない限り、周囲の安全を一々確認する義務を要求されるものではないというべきである。」
<次回に続く:解説と問題点> |