中学校体育正課授業柔道負傷事故3/3

第00071号
2004年1月5日 更新

「中学校体育正課授業柔道負傷事故」3/3

(松山地裁、平成5年12月8日判決 損害賠償請求事件、判例時報1523号139頁)

中京大学体育研究所 吉田 勝光

3.本判決の解説と問題点の整理

1)最近の学校での柔道事故判例は、ほとんど中学校でのものである。中学校での柔道事故判例で、筆者が把握しているものは、本件を含めて5件ある。
@熊本地裁昭和45年7月20日判決(判時621号73頁)、
A本件判決、
B静岡地裁平成6年8月4日判決(判時1531号77頁)、
C新潟地裁高田支部平成9年1月30日判決(判時1633号124頁)、
D最高裁平成9年9月4日判決(判時1619号60頁)
である。これらに次の特徴等が見られる。

ア、すべて練習相手から技を掛けられた際の事故である。掛けられた技は、背負い投げ(上記判決@)、大内刈り(本件)、大外刈り(同BD)、後ろ腰(同C)である。
イ、本件(正課体育授業中)以外はすべて部活動中の事故である。
ウ、被害者は、本件(3年生)以外は、すべて1年生である。また、本件を含めて、すべてそれまでに柔道の経験が無い者ばかりである。部活動中の事故においては、入部後2か月〜4か月の者である。
エ、5件ともすべてについて指導者の過失が認められた。

以上を考え合わせると、中学校での授業及び部活動での柔道の指導者に課せられた責任は大きい。特に、初心者への配慮が強く要求される。すなわち、初心者の受け身能力を考慮した練習内容が実施され、かつ、技を掛ける者に対する適切な指導(危険技の禁止)が行われることが切に望まれる。

2)本件判決について
ア、他の事故判例とは異なり、本件判決は、授業中の事故であった。このため部活動中の事故で通常取り上げられる問題(指導者の注意義務ないし責任は部活動と授業とで異なるか)が争われなかった。

イ、中学校の授業で、指導する立場にある者(N教諭)が、柔道経験の無い者を指導する際に、一般的に注意すべきこと及び本件Xへの指導上注意すべきことは、判決文のとおりである(2.−2)−A及びB)。また、「技を掛けて受け身の練習を行わせるときには、柔道の指導方法を学んでいたN教諭が自ら技を掛けるべきであった」とあるのは、20人という小人数であるからこそ可能であろう。多人数では、他の安全な方法を実施することとなろう。

ウ、また、本件判決で注目されるのは、N教諭が、大内刈りが受け身のしやすい技である旨証言していることである。もしこのようにN教諭と同じ考えを持つ担当教師がいるとすれば、監督者である校長は、担当教師に対し、裁判所は大内刈りについて、判決文(2.−2)−@)のごとく考えていることを十分認識させる必要がある。担当教師もこの点を承知しておくべきである。

3)実際、授業としての柔道実技の指導は、部活動での指導に比して難しい点がある。生徒が様々で、生徒との個人的接触の機会が少ないこと、個々の生徒の状況が把握しにくいこと、意欲のない者が多いこと等は他の種目も同じである。柔道の授業が難しいのは、最初に受け身の練習をしなければならないことである。また、この受け身の練習が痛いだけで何の面白味もないのである。筆者も高校の体育で柔道を経験したが、冬の寒い武道場で受け身をしたときの、あの畳をたたいた時の右腕の痛さを今でも思い出す。柔道の担当教師は、この難しさにもかかわらず、一旦事故が起これば、受け身が不十分であったと過失の有無を裁判で問われるのである。そして、前述の5件の判決のように、過失ありとされるのである。

4)生徒のスポーツを楽しむ機会(権利)
本件で、運動能力が劣るX側は慰謝料請求中、精神的・肉体的被害の一つとして「I…、スポーツの制限」を掲げた。すなわち、X側は「当初ラジオ体操が許され、昭和62年8月ころからジョギング程度のものが許されたが、サッカー、ラグビー、鉄棒、野球その他の運動は一切できない。」と主張した。通常、裁判でこの点に触れることは珍らしい。この意味でも本判決は注目されてよい。
このX側の主張に見るまでもなく、国民のスポーツへの愛着が濃くなっている今日、運動能力の無い生徒を含めて、生徒全員が将来何がしかスポーツを楽しむことは当たり前になってきている。このような機会を事故によって失わせないようにすることは、学校の授業で柔道を教える立場にある者としても、他のスポーツ指導者と同様、責務として負っているものと考えられる。この責務は、柔道を指導することの難しさゆえに軽減されるものではない。


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