「県立高校漕艇部ボート転覆死亡事故」3/3
(青森地裁、平成5年9月24日判決 損害賠償請求事件、判例時報1505号127頁)
小笠原 正
東亜大学法学部 教授
3.判決の解説と問題点の整理
ボート競技という郊外の自然水面上で行われる競技の特殊性を考えると、他の競技とは違う危険性があることを認識しなければならない。本件ボート部は、高校の課外クラブ活動ではあるが、教育活動の一環として位置づけられるものであり、正課授業と同様、学校設置者はそこから生ずる危険から生徒を保護すべき責務がある。また、校長や教師は同設置者の機関として、生徒の安全を保護すべき職務上の責務を負っていることは、最高裁昭58・2・18小法廷判決に明らかなところである(本誌1998年8月号、4頁以下ー小笠原ー参照)。
とりわけ、本件ボート部のような郊外の自然水面という施設環境のもとでの練習では、自然環境そのものの危険の発生を予測する必要がある。このような特殊性を考えると、事故防止のために特段の配慮が必要であり、生徒を事前に十分に指導し、その為の安全措置をとった上で練習を開始すべき注意義務がある。指導監督に当たる顧問教師や学校教育活動の全体的運営にあたり指導監督の立場にある校長は、安全配慮義務を負担する「県」の履行補助者としての責任がある。
次に、A君のような水泳能力に乏しい者に対する指導についてであるが、泳げることが入部の条件になっていないことから、水泳のできない生徒が入部することが予想され、その為の対応として漕艇協会員による安全講習会が開かれているが、水泳能力テストなどは行われていなかった。また「安全の手引き」には「最小限50メートル、かつ浮き身、立ち泳ぎ程度は必要」との記載があったが、これを部員に配布し、個人の責任で水泳能力を身につけるよう指示するにとどまっている。A君は、水泳能力がほとんどない状態で練習に参加し、しかも、シングルスカルという、漕艇技術や経験・実績・学年構成などの理由で水中に転落した際他の乗員に救助されることが期待されない艇に乗ることは、それを許可した顧問教諭に安全配慮義務があったとされても、やむを得ないところであろう。
次に君の過失についてである。判決は「危険引き受けの法理」に接近した判示を組み立てている。まずA君にも相当の過失があるとした。それは、高校二年生の判断力について、自己の生命、身体に関する危険を予測する能力については、成人に比して特に劣るものとは認められないとして、成人とは同じではないが相当の判断力は持っているというのである。その上で、ボート競技という危険の伴う練習に参加したということは、競技大会にも出場しているという経験もあるのであるから、危険の伴う練習内容はもとより、具体的危険を十分に了知した上で自己の意志により参加したのであり、A君にも安全に配慮すべき注意義務を負うものとした。この過失の割合を五割として、A君の判断力については、未だ未熟な高校生であることを配慮している。大学のカヌー部の事故で、19才の医学生について、学校側の義務を否定した事例(大阪地裁昭95・1・22判決)があるが、高校生の発達段階を考慮して危険防止義務を判断している。
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