「県立高校漕艇部ボート転覆死亡事故」2/3
(青森地裁、平成5年9月24日判決 損害賠償請求事件、判例時報1505号127頁)
小笠原 正
東亜大学法学部 教授
2.裁判所はこの事故をどのように判断したか
裁判所は、いくつかの点で顧問教師の注意義務違反を指摘しており、さらにA君の過失についてもその存在を明確にしているので、この点から述べることとする。
(1)ボート競技と水泳能力
A君は、水泳能力に乏しかったが、泳げることはボート部に入部する際の絶対条件ではなかったことから入部したのであるが、この点次のように判示している。A君は水泳能力がほとんどない状態で入部し、実際入部当初に艇から水中に転落して他の部員に救助される事故に遭っているのであるから、顧問教師等は、ボート部において水泳訓練を実施するか、水泳の機会を持つよう強く勧告すると共に、実際に水泳訓練を受ける機会を保障して必要な泳力を確実に身につけさせるように相応の配慮をしたり、ボート部の練習の過程で実際に水中に沈む経験を複数回積ませるなどして、水泳能力に乏しい者が抱きがちな水に対する恐怖心を取り除くと共に、水中での的確な対処を体得させる注意義務があったとした。
(2)救命具の装着について
マリンポーチ等の救命具の装着について裁判所は、そのチェック機能を重要視している。
すなわち、水泳能力の如何にかかわらず、突然の転覆等で水中に投げ出される事態が発生した場合、誤って水を吸引するなどして、水中での冷静な行動が不可能になることは、往々経験される所であるから、普段の練習の際も、マリンポーチ等の救命具の装着を徹底し、ある程度の訓練を経た者に見られる所の過信もしくは慣れによる、マリンポーチの付け忘れがないよう指導担当教師自らの乗艇時におけるチェック、もしくは部員やマネージャー等の相互監視を含めたチェックを行わせるなどの、特段の安全に対する指導を行うべき注意義務があったというところである。
(3)国家賠償法違反
以上のことから裁判所は次のように結論付けている。顧問教師等が、指摘したような安全に対する指導を日常から徹底し、安全配慮義務を履行していたならば、適切な対処をすることは十分に予想できるから、顧問教師等の義務違反と本件事故発生の結果との間には、相当因果関係がある。そうであれば、その余の責任原因の有無について検討するまでもなく、被告(県)は国家賠償法一条に基づき、損害賠償の義務がある。
(4)A君の過失
裁判所は、A君についても相当の過失があるとしその割合を五割として相殺している。すなわち、一般に高校2年生では成人に比して判断力について未だ十分ではないが、自己の生命、身体に関する危険を予測する能力については成人に比して特に劣るものとは認めがたい。
本件のようにボート競技のクラブ活動に参加して、競技大会にも何度か出場するなど、一定の経験を積んだ高校生は、危険の伴う練習にその内容や具体的危険を十分了知した上で、自己の意思に基づき参加するのであるから、正課の授業の場合と比較して、より一層に自己の生命・身体の安全に配慮すべき注意義務を負うものと考えられるとした。
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