剣道部員の遊びによる受傷事故と校長・顧問教諭の責任3/3
「市立中学校剣道部ホッケー遊び受傷事故」
(神戸地裁、平成9年8月4日判決 損害賠償請求事件、判例時報1641号112頁)
東亜大学法学部教授
小笠原 正
4.本判決の解説と問題点の整理
1)学校における一般的危険性
学校生活が、心身ともに未熟な生徒によって構成されているところから、そこでは、思いがけない事故が発生することがある。悪ふざけやいたずらをはじめ、理科の実験・体育の授業など、教育活動あるいはそれと密接に関連する生活関係等、学校生活の全般において注意が必要である。したがって、学校長又は教諭は、その職務に必然的に伴うものとして、生徒の身体、生命、健康等の危険防止に万全を期すべき一般的注意義務を負うことは、判例上も確認されていることである。これは、部活動であろうと、課外のクラブ活動であろうと変わりはない。「課外活動であっても、それが学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問教諭をはじめ学校側に、生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務のあることを否定することはできない。」とする、最高裁判決(昭58・2・28第二小法廷判決)において明らかである。
2)事故発生の予見可能性
本件も、教育活動の一環として行われる部活動やこれと密接な関係にある校長や指導担当教諭に、部活動に参加する生徒の安全を図る義務があるとしており、一般的注意義務は確認されている。問題は事故発生の予見可能性であり、その場合の事故回避義務としての具体的注意義務についてである。裁判所は、本件のような重大な人身事故が生じることを予見すべき特段の事情があったとは云えないとし、顧問教諭の過失を認めておらず、学校長についても過失があったとは云えないとしている。しかし、裁判所が認定した事実によって判断した場合、顧問教諭並びに学校側が、一般的注意義務(抽象的注意義務)により抽象的危険の段階で事故を予測してどのような回避のための措置を講じていたのか、今一つ明らかではないように思える。生徒は、ふざけもしいたずらもするものである。教師が思いもかけないようなことを教師がいないことをよいことにしでかす場合があることを知る必要があろう。具体的危険が顕在化しない前に、事故が発生しないように、また、危険に対処する方法などを修得させるプログラムを学校並びに教師の側で作る必要があるのではないであろうか(プログラム責任)。本件の場合のように、部活動に密着する生活関係において発生した事故とい
えども、参加する生徒の安全を図る義務が当然あるのであるから、事前に危険回避のシステムを確立しておくべきであろう(システム形成責任)。
3)剣道のスポーツとしての危険性
次に、剣道の危険性についてである。裁判所は、剣道は、伝統的な格闘技であると言っても、竹刀を持って練習や試合をする範囲内では格別の危険性はないとしたことは、先に見たとおりである。しかし、過去の事例として、竹刀の竹材の一本が折れてちぎれ、残った部分の折れ口が面がねの間から入り込んで右目下に突き刺さり、右目を失明したという事故があり、損害賠償請求事件となったことがある(名古屋地裁昭63・12・5判決)。この判決では、格闘技であることから、竹刀が破損していないか、あるいは破損しやすい状態になっていないことを確認し、生徒の身体について危険の発生を未然に防止するべき注意義務があることを当然とする判決をしている。
スポーツの危険性は、予期し得る場合と、予期し得ない場合とがあり、いずれの場合においても可能な限り安全措置を講じておくことが必要である。
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