ウインドサーフィンで疾走中に波待ちのサーファーと衝突した事故における責任3/3
「海における衝突事故」
(大阪地裁、平成9年6月13日判決 損害賠償請求事件、判例タイムズ959号193頁)
弁護士 望月 浩一郎
3.本判決の解説と問題点の整理
スポーツ中のプレーヤー間の衝突事故に関しては、スキー、自動車競技、水泳などについて判例がある。本判決は、サーフィン、ウインドサーフィンに関する最初の判例である。
衝突の危険性がある競技においては、ルールなどに違反せず、かつ、暴走ないし危険な滑走・走行をしなければ、生じた衝突事故に対して責任を負わないとする考えがある。
スキー場での衝突事故において、札幌高裁平成5年10月28日判決(判例集未掲載)は、「スキー場での滑走には相当の危険を伴うものである。したがって、スキー滑走を行う者にはそれぞれにそのような危険を回避する注意義務があるが、その一方、スキーは単なるレクレーションにとどまらず、スポーツとしての側面が大きく、特に高度の技術を駆使する上級者の滑走についてはこの点が顕著であるから、滑走に際してはそのような危険が常に随伴することを承知のうえで滑走しているものと解すべきである。とすれば、スキーの滑走がルールや当該スキー場の規則に違反せず、一般的に認知されているマナーにしたがったものであるならば、他の滑走者に傷害を与えるようなことがあっても、それは原則として注意義務の違反と目すべきものではなく、また、行為に違法性がないと解するのが相当である」と判示した。
しかし、上記札幌高裁判決は、最高裁平成7年3月10日判決(判例タイムズ876号142頁)で破棄差し戻された(差し戻し審で和解)。最高裁判決は、「被上告人が本件事故発生前の時点で下方を滑降している上告人を発見し得た可能性は否定できないが、被上告人が他の滑走者に危険が及ぶことを承知しながら暴走し又は危険な滑走をしていたとは認められないから、被上告人には本件事故の発生につき過失はなかった」との原判決の判断について、「法令の解釈適用を誤った違法がある」とし、その理由を次のとおり示した。
「スキー場において上方から滑降する者は前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものというべきところ、前記事実によれば、本件事故現場は急斜面ではなく、本件事故当時、下方を見通すことができたというのであるから、被上告人は、上告人との接触を避けるための措置をとりうる時間的余裕をもって、下方を滑降している上告人を発見することができ、本件事故を回避することができたというべきである」。
本判決では、上記最高裁判決の判断の枠組みにそって、前提としてウインドサーファーであるYの前方注視義務を肯定し、事実認定の結果、Yの前方注視義務違反があると認定した。
一般に衝突事故の回避義務は双方にあり、海上における衝突事故もこの例外ではない。
そのため、本件においてもXの過失の有無が検討される必要があり、Xの過失が肯定されるならば過失相殺される。本判決は、@「本件事故の態様」、A「ウインドサーフィンとサーフィンの機動性等その特性の差異」、B「双方の過失の内容」を考慮して相互の過失割合をY85%、X15%と判示した。
交通事故においても、自転車と大型車両との間の事故のように、同じ車両といっても危険を作り出す程度に差がある場合には、当該車両の特性自体が過失相殺の考慮の要因とされているが、本件においても、「ウインドサーフィンとサーフィンの機動性等その特性の差異」が考慮対象となっていることは先例として注目すべきである。
近時、海上レクレーションは愛好者が増大しており、ジェットスキー(水上オートバイ)、サーファー、ウインドサーファーの間の事故、また、これらの海上を疾走する形態のスポーツと一般の泳者、シュノーケリングやスキューバーダイビングを行う者との衝突事故なども予想される。このような事故を防止するためには、海域の管理者が、@それぞれの種目に応じた海域を設定する、A関係者に対する衝突事故の危険性の喚起をするなどの対策が必要である。
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