県立高校相撲部の合宿練習中の熱中症死亡事故と顧問教師の過失
「県立高校相撲部練習死亡事故」2/3
(東京高裁、平成6年10年26日判決 損害賠償請求事件、判例時報1555号56頁)
日本体育大学教授
緒方 章宏
3.顧問教諭の取った処置は適切だったか
A君は、整理運動としての腰割(10回)の段階で足が上がらなかったり、ふらついたりしており、そのうち途中でやめて道場から出て行こうとしたり、制止に当った他校の顧問教諭に寄りかかるように倒れかかり、さらに唾を吐きかける等のかなり異常な行動を取っていた。しかし、この段階で顧問教諭は、A君が練習を嫌がっているものと思い込みそのままそこに寝かせていた。その後他校の部員の練習が終了し、道場を清掃するためにA君を起こし道場の外へ連れ出そうとしたところ突然グランドへ走り出し倒れた。そこで体育館北側のコンクリートの上に寝かせ回復を待った。3時40分頃顧問教諭が声を掛けたところA君は嘔吐しまわしの中に脱糞もしていた。この段階で顧問教諭は異常に気がつき、シャワー室で体を洗った後、病院に搬送するべく救急車の出動を要請したのである。このような状況から、明らかに道場内部で足がふらついたり、倒れ込んだりした時点でA君は中程度の熱中症に陥っていたと見るべきで、この点については、1審、2審とも裁判所が認めているところである。その後、顧問教諭はA君を体育館北側のコンクリートの上に寝かせたままで、何ら熱中症に対する処置を取らなかったため、さらに症状が悪化し、大変不幸な結果を招いてしまったといってよいのである。顧問教諭側は、A君の死亡原因が熱中症にあるとしても、熱中症は最近になって産業医学や運動生理学の分野で研究発表されるようになった比較的新しい疾病であり、一般内科医でもこれに対する知識を持っていないことが多く、医学的に素人である顧問教諭には、A君が熱中症による急性心不全により死亡したことについての予見可能性はないと主張した。また相撲はまわしだけの裸に近い状態で行う運動であり、これまでに熱中症にかかった例が皆無であること。他の部員に異常がなく、A君ただ一人であること。体に異常があれば本人が申し出れば良いことであって、その旨の申し出がなかったことなどをも主張して、A君が嘔吐したり脱糞したりするまで体に異常があったとは考えず、単なる疲労と考えて日陰で休ませて回復を待ったことはやむを得ないことであって顧問教諭の取った行動に過失はなかったと主張したのである。
4.裁判所はこの事故をどのように判断したか
この事件において、控訴審判決は、1審判決(千葉地裁、平3・3・6判時1407号108頁)の字句を補足、修正した上で、ほぼ1審判決の趣旨を引用する形で判断を行っているため判旨は全く同じであるといってよい。まず、A君の死亡原因については1審、2審ともに熱中症による急性心不全であることを認めている。また、体育館北側のコンクリート上に寝かせたままで放置したことが、状態を悪化させたことについても「可及的速やかに病院に搬送していれば、救命の蓋然性は高かったものと認められる」(控訴審判決)として顧問教諭の責任を認めた。さらに顧問教諭の予見可能性についても事故発生時の環境が高温多湿で熱中症を発生しやすい状態にあったこと、一般に運動中に気分が悪くなったり、熱中症に罹ったりすることは稀ではなく、相撲も例外ではないこと、A君が1年生で入部してから間がないこと、相撲は激しい運動であること、A君は顧問教諭に引率されて他校での合宿に参加したのであり、平素の体調は顧問教諭でなければ知りえないこと等から予見し得なかったとの主張を認めなかった。
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