体育授業中暴行死亡事故2/3

第00051号
2003年6月23日 更新

体育授業中の暴行による死亡事故の担当教諭の責任2/3
「体育授業中暴行死亡事故」

(福島地裁郡山支部、平成9年4月24日判決 損害賠償請求事件、判例時報1642号120頁)

東亜大学法学部教授 

小笠原  正

 

2.裁判所はこの事故をどのように判断したか

1)首絞め等の暴行の有無

まず裁判所は、当時、A君と同じ体育の授業を受けていたB君の証言並びに同級生等に対する聞き取り調査結果を加味して総合的に判断したところ、同級生の一名がA君の首を後方から右腕を回して絞めたこと、失神し倒れたA君を見て近くに寄ってきた周辺の生徒達のうち数名が、ふざけて死んだふりをしていると思った可能性もあるが、いずれにしてもA君を取り囲み、なおも胸や腹の上に馬乗りになって体重をかけ、瞼をさわったり、鼻や口を塞ぐ、つまむ、頬を叩く、砂をかける、足を引っ張るなどの行為を繰り返していたことを認めている。

2)体育担任教諭の過失
裁判所は、教諭の抽象的一般的注意義務(安全配慮義務)と具体的注意義務(高度の注意義務)としての過失を認め、この点について次のように述べている。

(1)安全配慮義務については、中学校は、多様な成長途上にある生徒が集団的に学習活動を遂行する場であって、常に種々の危険を内在しているところ、被告は、市立中学に在学する生徒に対し、学校教育の場において、その生命身体等を危険から保護するための措置をとるべき法的義務(安全配慮義務)を負うことはいうまでもないと認めている。

(2)具体的注意義務(過失ー高度の注意義務)については、特に、体育の授業において、一般に体力を要し、負荷の高い運動を伴う課題や教室内での授業に比して高度の危険を内在する課題等を、教育上の必要から実施することが許されており、他方、一定の危険の内在するものであっても、義務教育の正課授業においては、生徒はいわば強制的にこれらの授業を受ける立場にあり、その心身の発達程度も未熟であることから、授業を担当する教諭としては、一般生徒の健康状態や体調、運動能力、発達程度等を十分に理解・把握し、それに応じた授業計画を策定、実施することはもとより、正課授業実施中においては、秩序の弛緩を避け、規律を維持して生徒の動向を把握し、生徒の動静に伴う危険を予見して十分な注意を払い、現実に生徒間での暴行や喧嘩、体調不良等を疑わせる状況が生じた場合には、直ちにその事態を把握して暴行を制止し、あるいは秩序を回復せしめるなど適切な措置をとり、事故の発生を未然に防止できるよう、常に生徒の動静を適切に把握し、危険や重大な結果を回避する高度の義務を負っているものと解するのが相当であると判示した。

(3)教諭のとった措置については、裁判所はこれを厳しく糾弾している。教諭は、100メートル走を終えた生徒がゴール付近に雑然と散在し、たむろし、騒がしい状態にあったのに、「うるさい静かにしろ。」などと口頭で注意したにとどまり、それ以上に生徒を整列させるなどの措置をとらず、生徒の動静を適切に把握・監督できない状態のまま計測を続けた。そのために、教諭は、A君が同級生から暴行を受けていることを全く認知しないまま、最終組の生徒の走行途中まで計測を続行し、その間5分もの間、A君が暴行を受けていることを看過し、生徒の知らせを契機として、初めて事態の重大性を認識したのであって、その為に既にA君はグランド上に仰向けに倒れて失神・失禁し、心臓・呼吸が停止し、瞳孔も散大している旨判断される状態に陥っていたものであるから、この点教諭には前記注意義務を怠った過失があるといわざるを得ないというものである。

次回に続く


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