大学合気道部死亡事故事件 3/3

第00040号
2002年12月20日 更新

大学におけるスポーツ事故と指導者責任
「大学合気道部死亡事故事件」3

(松山地裁、平成8年8月28日判決 損害賠償請求事件、判夕968号168頁)

東亜大学法学部教授

小笠原  正

 

3.本判決の解説と問題点の整理

1)大学と学生の関係
大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的としている(学校教育法52条)ことから、学科における正課授業以外の、学生による自主的活動も、学生の人格形成に重要な役割を果たすものである。大学は、原則として学生の生命・身体に対して安全配慮義務ないし安全保持義務を負うものと解される。本判決が、教育及び研究の目的のため、学生に対する管理権を伴うところから、大学当局は、学生の施設利用ないし教育活動について、信義上、一般的な安全配慮義務を負うとしているのも、同じ見解に立っていると考えられる。
本件が、国立大学における事故であることから、学生の地位は、入学許可という行政処分によって生じた在学関係にある、という立場をとっており、契約による私立大学の在学関係とは違うとするものであるが、国立大学においても、また、私立大学においてと同じように、在学関係に付随する義務として安全配慮義務を負うとする判決が過去多数を占めている。ただこの場合に注意しなければならないのは、大学の公認団体である文連・体育会・自然科学連盟等と云ったものに所属している部(クラブ)か、非公認団体である同好会やサークルであるが大学に届出されている部(クラブ)である、ということが前提であり、個人的に同好の者が趣味的に集まって作ったクラブまで含むものではない。

2)主将の責任について
本件のように、大学における部活動の事故で、正面から主将の注意義務を問題にした判決は珍しい。裁判所は、主将が本件事故の発生した春合宿において、事前の準備運動など無理のない合宿メニューをこなしたものであり、注意義務違反はないと判断し、主将の役割を、
@対外的に部を代表する。
A練習の計画を立てる。
B練習の進行管理をする。
としている。大学の課外活動における主将の役割を一定程度明らかにしており、参考にできる。

3)顧問教官について
大学の課外クラブは、顧問に教職員がなっている場合が多い。その資格については、本件判決にもあるように格別の資格はなく、そのスポーツや競技についての専門的知識や技術をもつことを前提としていない。本件顧問においても、
@当該団体に対応す
る専門の知識を有する必要がない。
A顧問に地位・職務内容・権限を規定するものは存在しない。
B部員らが教官の中から適宜依頼して顧問に就任してもらっている。
C報酬も支給されていない。
というものであり、その任務は、教育的立場に立った一般的指導であり、その役割は、部に対する一般的助言や大学との調整的役割を期待されるというものである。
その意味からするならば、部顧問の負っている安全義務は、中学や高校の課外クラブ活動と異質のものと考えてよい。ただ、本件の顧問教官は同大学の同部出身者であり、合気道4段と云う専門家である。また、道場を主宰し部員らが週1・2回ほど練習に参加しておるなど、合気道の専門家として指導的立場にあったことを考えれば、顧問教官としての立場と同時に、コーチとして部員の技術上の指導に当たっていたものと見ることもでき、判決はこの点に触れてはいないが考慮する余地があるのではないだろうか。コーチは、学生の技能・能力・コンディション等の状況を判断し、安全性を考えて指導し、事故を防止する一般的義務を負っているものだからである。ただ、部顧問と同じように、コーチもまた、中学や高校の部顧問・コーチの場合と同じような立場に立って、安全義務を負うというものではないことに注意すべきである。


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