大学におけるスポーツ事故と指導者責任
「大学合気道部死亡事故事件」2
(松山地裁、平成8年8月28日判決 損害賠償請求事件、判夕968号168頁)
東亜大学法学部教授
小笠原 正
2.大学の運動部の指導者の責任を裁判所はどう判断したのか
裁判所は、A君の死亡原因は、B君との春合宿における合気道の練習中に、B君の掛けた正面打ち入り身投げによってA君が受け身の体勢を十分にとり得ないまま転倒し、頭部を床畳に打ち付けたことにより右側頭部硬膜下血腫を引き起こし、死亡したと認定した。その上で、主将Y1(以下、主将と云う)、顧問教官Y2(以下、顧問教官と云う)、同大学の設置者である国Y3(以下、国と云う)に、安全配慮義務を尽くす義務があったかどうかを詳細に検討している。なお、B君にたいしても、故意又は重大な過失によりA君の頭部を床畳に打ち付けたとして、共同被告として損害賠償請求が出されていたが、裁判上の和解が成立している。
1)合気道部主将の責任について
練習の危険性を部員らに周知撤退すべき、注意義務があるかどうかが問われていたが、裁判所は、次のように判示した。
大学の課外活動の場である体育系学生団体における主将は、対外的に、部を代表する立場にあり、日常の練習については、計画や進行指示を担当する役割を負っているものと解されるが、今回の春合宿においては、無理な練習計画が立てられたり、主将として不適切な進行指示がなされたと認めることはできない。主将に事故発生についての過失は認めがたいとした。
2)顧問教官の責任について
同大学における学生団体の顧問教官については、施設利用等の際に署名、捺印が求められてはいるが、学内に任免や職務内容等に関する規定はなく、なんら専門性が求められてはいない。これは、学生らによって自主的に運営される学生団体にあっては、名目的地位に止まるものである。教育的立場に立った一般的指導といっても、学生団体に対する一般的助言や大学との調整的役割が期待されているにすぎない。同部の練習内容の決定や実践について部員らを具体的に指揮、監督すべき義務はないと判示している。
3)国の責任について
一般に国立大学においては、契約によって生じる私立大学の学生の在学関係とは異なるものの、入学許可という行政処分によって生じた在学関係でも、教育及び研究の目的のため学生に対する管理権を伴う以上、大学当局は、学生の施設利用ないし教育活動について、信義則上、一般的な安全配慮義務を負うと解するのが相当である。学生団体は、学生らによる自主的運営に委ねられているものであり、したがって、大学当局としては、右課外活動において、学生に使用を許可して施設の安全保持義務を負うことは当然であるが、その活動面における危険防止については、原則的に学生団体に属する学生らの自主性に委ねられており、当該学生団体が課外活動の目的を逸脱した違法行為を恒常的に行っているなど特段の事情が認められる場合は、大学当局において適宜警告を発するなどして改善を促し、それでも効果がない場合は、施設利用を禁じたり、学生団体承認を取り消して活動の中止を勧告すべき義務があるが、それ以上に、大学当局は学生団体の課外活動に個々に介入するなどして、具体的危険防止のための安全配慮を尽くす義務まで負うものではないと、解している。
また、同部においては、課外活動の目的を逸脱した違法行為が恒常的に行われていたと認める事はできないとしている。
<次回に続く>
次回は解説と問題点の整理
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