県立高校のハンマー投げ練習場設置の
不備に関わる国家賠償責任
「ハンマー投げ練習高校生直撃死亡事故」2
(浦和地裁、平成8年10月11日判決 損害賠償請求事件、判時1613号120頁)
福井大学教育学部 助教授
水沢 利栄
3.裁判所はこの事件(事故)をどのように判断したか
【ハンマー投げ練習場の設置・管理に不備】
ハンマー投げの練習は、他人に衝突するときは生死にかかわる重大な結果が予測され、衝突事故の防止、安全確保に細心の配慮が要求される。運動場内で他の生徒のクラブ活動と同時に行うことを予定していたから、陸上競技場にいる他の生徒に対する安全確保が特に必要であった。
ハンマー投げの練習場には、安全確保の施設として防護ネットが設置されていたが、サークル内から投擲動作を開始した場合においても、サークルの外でハンマーが手から離れる可能性は高い。その場合には、防護ネットは、ハンマーが扇形中心線から西に50度以上それても防護の役に立たないことがある。しかもハンマーの手から離れる地点がサークルから1メートル程度外れれば、それる角度は65度にもなることがあり、ハンマーが飛び出す範囲はー層広がり、危険は増大する。
ハンマー投げの競技規則では、防護ネットの前方に幅2.7メートルの移動パネルを固定して取り付けることとされているが、移動パネルを防護ネットの前方に設置しても試技者に危険を及ぼすことがなく、ハンマーが左右にそれて飛ぶことを防止するためには有効である。本件の練習場の場合においても、防護ネットの前方に移動パネル等の防護機能を有する施設が設けられていれば、本件事故を防止することができた。
よって本件の練習場は、通常有すべき安全性を欠いたものと判断される。
【A君には過失なし】
スタートライン付近とA君が本件事故にあった付近ではハンマーが落下してくる危険性に格段の相違があるとは考えられない。また、顧問教諭がハンマーが飛んでくるとは予想もしていなかったのに、生徒に投擲の補助者が「はい」と合図した場合に練習を中断してまでハンマーに注目するように指導していたとの証言は不自然である。
仮にこれを信用できるとしても、右の認識の状態で生徒にハンマーへの注目を徹底させることは著しく困難であり、そのような指導を受けたことがあるからといって、A君がハンマーを注目していなかったことをもって、A君に過失があるとは認められない。よって、S県は国家賠償法二条に従い、損害を賠償する義務がある、と判決した。
4.この判決にはどのような問題点があるのか
この判例は、競技規則で示され試合の際に使用する用具は、通常の練習の時には使用しなくてもよいと軽信していた指導者や管理者に注意を促すものである。
本件の投擲の移動パネルの例のように安全面での必要性から設置されているような用具の設置に関しては、通常の練習に際しても、事故防止のために必要な施設となることを考えておかなければならない。
ハンマー投げは、投擲のタイミングやサークルのどの地点でハンマーが手から離れるかによって、ハンマーの飛んで行く方向が大きく変わる。本件では、この点で高校側の認識に誤りがあったといえる。また、飛来する地点の範囲を絞りつつ、投擲者本人にも危害が加わらないようにする対策としては、防護ネットの前方に移動パネルを設置する以外には有効なものがないことが明らかにされた。
練習であるという理由により、防護ネットだけで安全な施設であるということはできない訳である。現段階でハンマー投げの投擲練習場に移動パネルがない学校や運動施設では直ちに設置して、事故防止につとめなければならない。同様の事故が起きた場合には、安全性を欠いた施設と判断されてしまう。
ハンマー投げの練習については、高校の運動場では、複数の運動部が同時に練習で共有することは多い。生徒の安全を最優先して、練習させるよう配慮が必要である。
過去には、ハンマー投げの練習では同じ運動場で練習していた野球部の部員に当たったり、やり投げのヤリが他の人に刺さった事故など投擲をめぐる事故は多く発生している。実際の投擲の練習にあたっては、投擲方向や到達地点の安全を確認し、第三者に衝突しないように確認する係や、投擲時に、落下地点周辺に立ち入らないなどの取り決めをして、実施するなどの注意が必要となる。指導者としては、定期的に注意事項の徹底などを行わなければならない。
スポーツ 法律用語解説
「国家賠償法第2条」
「道路河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵(かし)があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」という条文で、国公立の学校や体育・スポーツ施設で、安全性に不備があって事故が生じた場合には、その損害を設置者である国または地方公共団体が賠償する責任があると定めている。
○「公の営造物」とは、行政の公の目的に供用される有体物、物的設備のことで、公立学校の校舎や設備はこれに含まれる。
○「瑕疵(かし)」とは、本来備えていなければならない安全性を欠いている状態のことをいう。不備、欠点の意味。
○ 私立学校の場合には、本条の適用はなく、民法第717条(土地工作物責任)が対象条文になり、その施設・設備の占有者又は所有者の責任が問題となる。
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