「ハンマー投げ練習高校生直撃死亡事故」1

第00036号
2002年11月18日 更新

県立高校のハンマー投げ練習場設置の
不備に関わる国家賠償責任
「ハンマー投げ練習高校生直撃死亡事故」1

(浦和地裁、平成8年10月11日判決 損害賠償請求事件、判時1613号120頁)

福井大学教育学部 助教授

水沢 利栄

県立高校の運動場でハンマー投げの練習をしていた陸上部生徒のハンマーが近くにいた陸上部生徒の頭部を直撃し死亡させた事故について、死亡した生徒の両親が、高校側にハンマー投げ練習場の防護ネットの設置に不備があったなどとして国家賠償法に基づいて損害賠償を求めていた事件で、裁判所は高校の設置者である県に賠償責任を認めた。

1.こうして事件(事故)は起こった

S県立高校の運動場では陸上部員が短距離走、投擲など種目ごとにグループで練習を行っていた(平成4年5月1日)。午後4時45分頃、ハンマー投げの練習をしていた陸上部男子3年生B君の投げたハンマー(5.5kg)が、本来飛ぶコースを左にはずれ、約37メートル離れたところで短距離走のダッシュ練習の順番を待っていたA君の左後頭部を直撃した。このためA君は頭蓋骨陥没骨折、脳挫傷により死亡した。

当時、同校の陸上競技練習場は、ラグビーコートを兼ねた運動場に300メートルのトラックがあり、その運動場の南東隅にハンマー投げ練習用の投擲サークル(2.5m)とその周囲を囲う金網の防護ネツト(高さ4m.幅2.74m,7枚)が半円形に設置され、開ロ部分の幅は6メートルであった。北西方向に投擲方向を示す角度4O度の扇形が示されていた。(ハンマー投げ競技は40度の扇形内に投擲されたものが有効な試技となる。)サークルの中心と開ロ部分の防護ネットの東端と西端を結ぶ線の角度は74度であり、投擲動作がサ一クルの中心(手から放れた地点がサークルの中心)で完了する
とすれば、扇形の中心線から左右にそれぞれ37度を越える範囲については防護ネットで妨げられる状態であった。

事故時の投擲されたハンマーの飛行コースは、本来の方向から大きく左にそれ、サークルの先端部分と開ロ部西端部分とを結ぶ延長線上辺りの、扇形中心線から65度の方向に飛んだものである。
事故が発生した時、陸上競技部の二人の顧問教諭は現場にいなかった。

2.当事者はどのように主張したか

【ハンマー投げ練習場の設置・管理に不備はなかったか】
<A君の両親の主張>:B君の投げたハンマーは防護ネットに妨げられずに事故地点まで飛びA君を直撃したものであり、防護ネットは事故を防止するには充分な機能がなかった。防護ネットの外に、競技規則でも取付が義務づけられる移動式パネル(幅2.7m)を取り付けていたなら事故は防止できた。このような移動パネルのない練習場は安全性を欠き、練習場の設置管理に不備があったというべきである。
<高校側の主張>:防護ネットの先端を結ぶ線の手前から投げられたハンマーは、角度40度の扇形の範囲内に飛ぶ。たとえ失敗しても300メートルトラックのライン方向に飛ぶことがあったとしても、そのラインを越えて飛ぶことはない。
移動パネルは公式競技の際に使用されるものであり、単に練習だけのときに使用する必要はない。移動パネルを使用をしなかったことで、本件練習場の設置・管理に不備があったとはいえない。と主張した。

【A君にも過失があったか】

<高校側の主張>:A君は、周囲の状況を見て危険が発生するおそれがあるかどうかの判断ができ、危険を避ける行動をとる能力があった。しかし、A君はハンマー投げの練習が行われていることを知っていながら、スタートダッシュ練習用のスタートラインから投擲サークルの側に9メートルも離れて(防護ネット西端から32メートル離れた地点)、漫然とスタートダッシュ練習の順番待ちをしていた。そのために事故は起きた。として、過失相殺を求めた。

 

スポーツ 法律用語解説

「国家賠償法第2条」

「道路河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵(かし)があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」という条文で、国公立の学校や体育・スポーツ施設で、安全性に不備があって事故が生じた場合には、その損害を設置者である国または地方公共団体が賠償する責任があると定めている。

○「公の営造物」とは、行政の公の目的に供用される有体物、物的設備のことで、公立学校の校舎や設備はこれに含まれる。
○「瑕疵(かし)」とは、本来備えていなければならない安全性を欠いている状態のことをいう。不備、欠点の意味。
○ 私立学校の場合には、本条の適用はなく、民法第717条(土地工作物責任)が対象条文になり、その施設・設備の占有者又は所有者の責任が問題となる。

 

<次回に続く>
次回は裁判所の判断と問題点


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