「高校体操部員跳馬練習受傷事故」2
(横浜地裁、平成9年3月31日判決 損害賠償請求事件、判時1631号109頁)
県立高校の体操部員が跳馬でC難度の技を練習中に後頭部から落下し、頸髄損傷等により負傷した事故で、受傷した生徒とその両親が、事故は顧問教諭の指導上の過失によるものとして国家賠償法1条に基づき損害賠償を求めていた事件で、裁判所は顧問教諭の過失を認め、県に対して国家賠償責任を認めた。
裁判所はこの事故をどのように判断したか
【B教諭は適切な安全指導を怠った】
<裁判所は>:高等学校のクラブ活動は、生徒の自主性が尊重されるべきことはいうまでもない。しかしながら、本件のように体操競技の実技練習を行うクラブ活動においては生徒の試みる技が高度なものであるほど、重大事故につながる危険性を伴うものであるから、指導を担当する教諭は、生徒がこのような技を試みる場合、生徒の体操競技に関するー般的な技量だけではなく、生徒の当該技についての習熟度を考慮し、これに伴う危険性を生徒に周知徹底させるなど、事故防止のための適切な指導、監督をすべき義務を負うものというべきである。との考え方を示した上で、B教諭の指導について次のように述べている。B教諭は、体操部の顧問として、日頃、もう少しA君の練習に立ち会い、A君の習熟度を把握すべきであり、A君の跳馬に着手後の跳躍等が不十分で、そのため回転を誤れば、頭部から落下する危険があることを指摘し、事故防止のため、回転を途中で止め
たり、体を抱え込む姿勢を崩したりしないよう指導する義務があった。
しかるに、B教諭は、A君が本件技の練習を始めた当初、技術面の簡単な指導を行ったのみで、以後、立ち会うことはほとんどなく、事故当時、相当程度に習熟しているものと軽信し、A君に対し、跳馬に着手後の跳躍等が不十分であることやそれに伴う危険性について具体的に指摘したりせず、また、特に本件技に関し、事故防止のため、回転を途中で止めたり、体を抱え込んだ姿勢を崩したりしないよう個別的、具体的に指導したこともなかった。その結果、A君は、本件事故直前のB教諭の指示を誤解し、背中から落ちることを意識するあまり、回転を途中で止め、本件事故に至ったものというべきである。B教諭としては、もとより、回転を途中で止めるようなとび方を指示する意図はなく、回転が不十分な結果、背中から落ちることがあっても、練習の回数を重ねるよう指示する意図であったと考えられるが、その指示の仕方は、A君のような習熟度にある者に対しては、不適切であったというべきである。と判断した。よって、B教諭には、A君に対する適切な安全指導を怠った過失があるものといわざるを得ないとして、B教諭は、公務員であることから、国家賠償法一条に基づき、本件事故によりA君および両親が被った損害の賠償をすべき責任があると判決した。
この判決にはどのような問題点があるのか
体操競技の技を高校生に指導する場合には、生徒が試みる技の難度が高くなるほど、重大な事故につながる危険性が高くなる。それゆえ、生徒の技量だけではなく、その技に対する習熟度についても十分承知しておくことが必要である。生徒に対してもその技の危険性について周知徹底することも当然行わなければならないことである。
そのためには、指導者の日頃からの指導、監督が重要となる。日頃から、生徒の指導に関わり、生徒の状態を把握、掌握しておくことで、適切な練習課題を与えたり、指導計画、事故やけがの防止対策などを行うことができる。
さらに指導者の指示や指導内容に対して、生徒がどの程度理解したり、従順するかをつかんでおくと、この判例のように指導内容を誤解したりすることは避けられることであろう。誤解するような生徒本人の能力も問題とはなるが、誤解により重大な事故が発生したのであれば、指導者の責任は重大であるといえよう。
しかしながら、高校の体操部の顧問教諭は、体操の指導以外にも数多くの業務があり、時間的にも十分な指導を行うには制限がある。また、生徒への指導が熱心になり密接になればなるほど、事故が発生した際の指導者の責任は重いものになる。名目だけの指導者の責任が問われない場合もあることを考えると、学校における運動部の指導について、指導体制や人的および経済的に支援する対策も検討されるべきであると思われる。
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