ゴルファーによるキャディー負傷事件2

第00033号
2002年10月25日 更新

ゴルファーのキャディーに対する
不法行為責任
「ゴルファーの素振りによる
キャディー右眼負傷事件」2

(神戸地裁、平5.5.25判決 損害賠償請求事件、判タ840号172頁)

中京大学体育研究所

吉田 勝光

<前回からの続き>

3.本判決の解説と問題点の整理

ゴルフ場経営状態の悪化に関するニュースが新聞やテレビで取り上げられているものの、ゴルフを楽しむ人々は多い。最近は、ゴルフ場の垣根も低くなり、以前と比べて気楽にコースに出られるようになった。いきおい、事故の発生も十分に予測されるところである。
不法行為(民法709条)が成立し、加害者に損害賠償責任が発生するためには、次の要件を備えることが必要である。
@故意又は過失、
A違法性、
B結果の発生、
C因果関係(行為と結果との)、
D責任能力の存在、である。

このうち、「過失」すなわち注意義務違反が、訴訟では争点の中心となるのが常である。

今回の事件でも、加害者であるゴルファーYの過失が問題とされた。しかし、本件裁判所は、この「過失」をあっさり肯定し、むしろ、損害賠償額の算定の関係から、被害者の過失や損益相殺の方を詳細に検討している。

ゴルフをした者は、一度はティーグラウンドで素振りをしたくなる衝動にかられた経験があるのではないか。
ゴルフは、野球やソフトボールと違って、1打1打使用するクラブが違う。また、一般のゴルフ愛好者は、それほど頻繁にゴルフ場でのプレーが出来ない。自分の打つ番までの空き時間に次に使うクラブでのフォーム確認のため素振りをしたくなるものである。

しかし、素振りの危険性は大きい。キャディーの危険だけに止まらない。同伴のプレーヤーにも同じ危険がある。ゴルフ場の掲示板やキャディーの指図などで素振り禁止があればそれに従うよう肝に命じておくべきである。そうでなくとも、素振りをする際には、1回ごとに周囲の安全を確認してから行うほどの細心さ・用心深さが必要である。

日本ゴルフ協会が制定したゴルフ規則第1章「コースでの礼儀」の冒頭には「安全の確認」と題して「プレーヤーは、ストロークや練習スィングを行なう際には、その前に、クラブが当たるような身近なところや、ストロークや練習スイングによって球、石、小枝などが飛ばされて当たる恐れのある場所に誰も人がいないことを十分に確認すべきである。」と規定されている。「礼儀」とあるが、本件判決は法的義務と考えているといってよい。

 

スポーツ法律用語解説

『損益相殺』
債務不履行や不法行為による損害賠償額を決める際に、損害を受けた者が損害を受けた原因と同じ原因によって利益を受けた場合、その損害から利益を控除することである。
例えば、スポーツ中に、選手の暴行行為(不法行為)により他の選手が死亡した場合に、遺族に支払うべき損害賠償額は、死亡選手が死ぬまでに取得したであろう金額(損害)から、生活に要したであろう金額(利益)を差し引いた額である。「生活に要したであろう金額」は、死亡によって支払う必要がなくなったという点で一種の利益である。この「差し引く」ことを損益相殺というのである。本件判決でも、労災保険による給付金額、雇主(ゴルフ場経営会社)からの見舞金額などが差し引かれている。


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