ゴルファーによるキャディー負傷事件1

第00032号
2002年10月17日 更新

ゴルファーのキャディーに対する
不法行為責任
「ゴルファーの素振りによるキャディー右眼負傷事件」1

(神戸地裁、平5.5.25判決 損害賠償請求事件、判タ840号172頁)

中京大学体育研究所

吉田 勝光


美容組合のゴルフコンペのキャディーが、先行するパーティーの動静を確認し、オナーにティーショット開始の合図をするために、ティーグラウンドの先端に出ようとしたところ、同ティーグラウンドで素振り練習中の者のクラブが右眼に当たり、キャディーの練習者に対する損害賠償請求が、認められた事件である(過失相殺3割)。

1.こうして事故は起こった

当事者の主張及び証拠に基づいて裁判所が認定した事実関係のあらましは以下のとおりである。

被告Y(25歳。会社員)は、美容組合の知人の誘いでコンペに参加していた。
原田、伊藤、大崎との4人のパーティーで1番ホールから6番ホールまでいずれもティーグラウンド上で待ち時間中にクラブの素振り練習をしていた。しかし、同伴のキャディーである原告X(52歳。昭和43年から本件コースのキャディーを勤めている)は、特に止めるように指図はしなかった。
そして、Yらが7番ホールに着いた際には、オナーが原田であった。前のパーティーがつかえていたため、4人はそれぞれドライバーを手にした。原田がティーアップして、暫く待機した。

7番ホールは、急な打ちおろしのパー5のホールであった。Xは、バックティーに立っていて先行パーティーの進行具合を見ていた。当時、7番ホールのティーグラウンドは、向かって右半分が使用され、左側半分とは、低いロープで仕切られていた。バックティーはこれらの後方に隣接し、小高くなっていた。

Y(プライベートハンディは16)は、本件コースは初めてであった。オナーの先打権及びオナーのティーアップ後は同伴プレーヤーは練習行為をしないというマナーも当然了解していた。しかし、練習をしたい一心で、ロープの中程の右側でロープを背にして約1メートル離れた位置にドライバーを手にして立ち、グリップを持ち変えたり、握ったままで手首を返してみたりした後、1、2回ドライバーを素振りした。最後にドライバーを振り切った際、丁度Yのほぼ後ろに来合わせたXの右眼にドライバーのヘッドが命中した。

Yは、数回の素振りを開始する直前には、Xが約3メートル後方のバックティーとの境目あたりに立っているのを知っていた。また、同伴プレーヤー3名が、Yの前方約3メートルに並んで立っているのも見ている。しかし、Yは、素振りを行う際に周囲に人がいないかどうかの安全確認をしなかった。
なお、ゴルフ場を経営する会社は、本件コースの1番ホールティーグラウンド上のプレーヤーの見易い場所に「ご注意 スタート待機中ティーグラウンド及びその周辺で素振り練習危険につき禁止します」と記載した立て看板を設置して、プレーヤーに対し、ティーグラウンド上における素振り練習の危険性を警告してその禁止をしている。(登場人物はすべて仮名)

2.裁判所はこの事故をどのように判断したか

裁判所は次のごとく判断をした。
プレーヤーは、素振りを行う際には、その前にクラブが当たるような身近なところに誰も人がいないことを十分に確認すべき義務がある。ティーグラウンドは、キャディーや同伴プレーヤーの立入る場所であるため、ゴルフ場経営者はそこでのプレーヤーの素振り練習を禁止する立看板を設置して注意義務を喚起している。

Yは、素振りを開始する直前の時点において、約3メートル離れた場所にキャディーと同伴プレーヤー3名の姿を見ていることが明らかであり、キャディーがティーグラウンド周辺においてプレーヤーのため各種の世話や指図等をするために動き回ることや、プレーヤーもティーショットのためにティーグラウンド周辺を動き回ることを十分予見していたことが明らかである。

Yは、自己が素振りをする本件ドライバーのヘッドが届く範囲内に第三者が近付く可能性を予見し、又は予見しえたはずであるから、直ちに素振り練習を止めるべきであった。
Yはこの注意義務を怠り、素振り練習を中止せず、かつ十分に周囲の安全を確認しないまま、漫然と安全であると軽信して素振り行為を行った過失によって、本件事故が発生したものである。
キャディーにも、不用意に最短距離であるYのすぐ後方を通過するという過失があり、損害額算定について考慮すべき過失割合は3割とするのが相当である。また、労災保険からの給付金、雇主(ゴルフ場経営会社)からの見舞金なども差し引かれるべきである。

<次回に続く>


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