スポーツクラブ設置者の工作物責任と免責特約の法的性格
「スポーツクラブ、水泳プール転倒負傷事件」(2)
(東京地裁、平9.2.13判決 損害賠償請求事件、判時1627号129頁)
小笠原 正
日本スポーツ法学会会長
東亜大学通信制大学院教授
スポーツクラブの会員が、水中体操に参加した後、廊下の水に足を滑らせて転倒し、負傷した事故について、設置者の工作物責任が認められた。又、入会時の免責特約の法的効力について裁判所が判断しており、参考になる判例である。
3.本判決の解説と問題の整理
この裁判で重要なのは、スポーツ施設の設置者の工作物責任と、スポーツクラブ経営者の会則等にある免責特約についてである。以下この点について考察する。
1)スポーツ施設の設置者の工作物責任
民法717条1項は、家屋その他建造物(工作物)の設置又は保存に瑕疵があったために、他人に損害を生じた場合には、その建造物(工作物)の所有者は、その瑕疵について責任がないときにも、その損害賠償の責任を免れないとするものである。この規定は、純粋に無過失責任を認めたものということが出来る。
本件の場合裁判所は、施設の設置又は保存の瑕疵について、その存否を判断するには、当該工作物の設置された場所的環境や、用途、利用状況等の諸般の事情を考慮し、また、この工作物の通常の利用方法に即して生ずる危険に対し、安全性を備えているか否かという観点から、この工作物自体の危険性ばかりではなく、その危険を防止する機能を具備しているか否かも併せて判断するべきであるとしている。そのうえで先のような廊下の水たまりの状況を検討し、危険を防止するための有効な措置を取っておらず、危険性を有するものとしたのである。スポーツ施設等の設置者は、常に安全のための十分な配慮をし、危険防止に努めていなければならないのである。
2)免責特約について
免責特約は、通常スポーツクラブ等の経営者によって一方的に定められ、多数の会員に統一的に適用される、不動文字で印刷された定型的なものである。確かに、スポーツクラブの入会に際し、施設の利用等に関して会則の定めていることを承認するという包括的な合意をしたというものではあるが、その解釈に当たっては、一般的、平均的な入会申込者ないし会員にとって、予期可能であり、かつ、合理的に理解することが出来るものとして、客観的、画一的に解釈すべきである。
公序良俗に反する事なく、社会通念上普通の知識、経験をもつ青年男女が、通常予測される範囲の危険について責任をもつということでなければならない。本件のような「会社側に重過失のある場合を除き、会社は一切損害賠償の責を負わない。」とする規定は、法的効力をもつとはいえず、本件のような施設の設置又は保存の瑕疵により発生した場合の損害賠償責任は、スポーツ施設を利用するものの自己責任の領域ではなく、スポーツ施設の設置者であるYスポーツクラブの責任といわなければならない。
この免責特約は、アメリカでいうWAIVERFORM(ウエーバーフォーム=免責同意書)と理解してよいが、これについては以下の用語解説において、説明することとしたい。
スポーツ法律用語解説
『WAIVERFORM(免責同意書)』
すでに触れたように、ウエーバーフォーム(免責同意書)は免責特約と同種のものと考えられる。これは、スポーツ・スクールの経営者やスポーツ競技の主催者などが、施設内あるいは競技主催中に発生した事故等から、責任を免れようとして「会則」「参加誓約書」などに、「会員本人又は第三者に生じた人的・物的事故については会社側に重過失の有る場合を除き会社は一切損害賠償の責を負わない」といった規定をおくものである。
この規定の目的は、スポーツ事故によって起こるトラブルの回避、ゆすり・たかりを心理的に抑制する、事故防止、予防の自覚・確認のためなどであるが、その法的効果は、民法90条の「公序良俗」に反する行為であり、無効と解されている。アメリカの判決(1992年バージニア州最高裁判決)も同じような判断である。
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