「余市高校ボクシング部事件」(2)

第00026号
2002年9月20日 更新

公立高校教員の注意義務違反と
地方公共団体の賠償責任
「余市高校ボクシング部事件」(2)

(札幌地裁、平9.7.17判決 損害賠償請求事件、判時1632号112頁)

小笠原 正

日本スポーツ法学会会長
東亜大学通信制大学院教授

<前回からの続き>

3.本判決の解説と問題の整理

ボクシングが、各種スポーツの中でも極めて危険性の高いスポーツであり、高校教育の一環である部活動においてこれを行う場合、これを指導する者は極めて高度の注意義務を負うものといわなければならない。指導監督する者は、一般的指導方法の策定・練習方法の決定等入念に考察することはもとより、具体的練習実施においても十分な注意を与え、本件ボクシング練習におけるA君とB君のように、ボクシング技能・運動能力等において格段の差があるときは、パンチの当たるような練習を避けるか、ヘッドギアを装着させたり、パンチを絶対当てないよう改めて注意するなど、重大な事故が起きないようにする高度の注意義務があることは、異論のないところである。そこで、公立学校における部活動の指導監督の立場にある顧問教師の過失について、その責任の法的性格を検討してみることとする。

1)公立学校(高校)における在学関係
公立学校における生徒の在学関係は、行政主体である地方公共団体の行政処分(入学許可)によって生ずる公法上の法律関係であるとする見解(特別権力関係説)と、私立学校の場合と同じように、生徒と当該高校の設置者である県との間の契約に基づいて基本的に成立し、学校設置者である県は、生徒に対しその施設を提供し、教職員をして、生徒に対し所定の課程を授講させる義務を負うとする見解(在学契約関係説)がある。本判決は、公立学校における在学関係は公法上の関係であるという見解に立ち、民法415条の債務不履行責任を否定したものである。

2)C教諭の立場と個人責任−公権力の行使との関係
裁判所は、公立学校における在学関係を公法上の関係とし、安全保護義務違反を理由としたことにより、債務不履行責任を構成するという見解をとらなかった。
C教諭には国家賠償法1条1項にいう職務を行うについての過失があったとしたのである。すなわち、この事故は、学校教育活動の一環である部活動の指導監督という公権力の行使に際して発生したものであるから、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて他人に与えた損害は、国又は地方公共団体がその被害者に対して損害の責を負うのであって、公務員個人はその責任を負うものではない。だから、公務員であるC教諭個人は、賠償責任は負わないとしたのである。(同旨、最判 昭30.4.19判決)
本件のような、部活動における顧問教師の指導監督も、学校教育活動の一環であり、国公立学校においては公権力の行使に当たるとする見解が一般的ではあるが、昭和29.9.15東京高裁判決のように「学校教育の本質は、学校という営造物によってなされた国民の教化、育成であって、それが国又は公共団体によって施行される場合でも国民ないし住民を支配する権力行使を本質とするものではない。」とする否定的判例もあることを付記しておく。


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