公立高校教員の注意義務違反と
地方公共団体の賠償責任
「余市高校ボクシング部事件」(1)
(札幌地裁、平9.7.17判決 損害賠償請求事件、判時1632号112頁)
小笠原 正
日本スポーツ法学会会長
東亜大学通信制大学院教授
この事件は、公立高校ボクシング部の部員である高校生が、練習中に倒れ、硬膜下出血により死亡した事故について、顧問教師に過失があり、設置者である地方公共団体に賠償責任があるとして、国家賠償責任が認められたケースである。
次の点が問題となる。@事故の原因はどこにあるか。A顧問教師に過失があったかどうか。B顧問教師に賠償責任があるかどうか。とりわけ、公立学校の生徒の在学関係が明らかにならなければならない。
1.死亡事故の原因はどこにあったのか
1)事故が起きたときの状況
この事件は、北海道余市高等学校のボクシング部の練習(平成5年2月5日)において起こった死亡事故である。事故にあったA君とその相手を務めたB君がマスボクシング(グローブをつけ、二人一組で互いに一定の距離を保ち、実際にパンチを当てずに、タイミングをはかりながら攻撃や防御を繰り返す練習方法。
以下、「本件ボクシング練習」という)を始めた。この時、顧問教師のC教諭はレフェリー役を務め、C教諭とA君・B君の距離は約2メートル、A君とB君とは大きく離れても1メートル程度であり、手を伸ばせば当たる距離にあり、マウスピースははめていたが、ヘッドギアはつけていなかった。本件ボクシング練習の開始から約1分後、A君は腰を後ろに引く形で、床に膝をつき、前方にかがむようにして倒れた。救急車で病院に運ばれたが、事故の3日後硬膜下出血により死亡した。
2)A君について
A君は一年生で入学前にボクシングの経験はない。入学の年の平成4年の5月からボクシングの練習を始めたばかりである。しかも、本件事故前体調不良で練習をしておらず、2月1日から軽い練習を再開したばかりであった。
3)B君について
B君は三年生でインターハイや国体選手として活躍し、インターハイ北海道大会で優勝したり、全国高校5位となったこともあり、A君の技量を相当上回るものであった。裁判所は、事故発生の状況、医師の診療、司法解剖の結果などから、B君のパンチがA君の頭部又は顔面に当たったことが死亡の原因であるとした。
2.裁判所の判断
1)顧問教師に過失があったのか
事故の原因は、A君の未熟かつ練習不足がB君のパンチに対応できず、頭部又は顔面に受けたことによるものであるとしたが、そのとき、一番近い距離におりレフェリーを務めていた顧問教師のCは、どのような指導をしていたのであろうか。
その日ボクシング部の練習は、C教諭不在の中、各部員はランニング等の準備運動、縄跳び、シャドーボクシングの練習を行い、その後、C教諭の立ち会いのもとスパーリングの練習を行った(シャドーボクシングの練習にはA君は参加していない)。
次いで、マスボクシングを開始したわけであるが、マウスピースはつけていたが、ヘッドギアはつけていない状態で本件ボクシング練習をさせており、高度な技量をもつB君に対し絶対にパンチを当てないよう注意するなどをしていなかった。裁判所は、このような事実から、C教諭は重大な事故を未然に防止する高度の注意義務を怠っており、国家賠償法第1条1項にいう、職務を行うについての過失があったと認定した。
2)顧問教師個人の賠償責任について
極めて危険性の高いボクシングの練習において、高度の注意義務違反の過失を犯したC教諭は、公務員であり学校教育活動の一環である部活動の指導監督という、公権力の行使をしたのであるから、公務員個人はその責任を負うものではない。
<次回へ続く>
次回は解説と問題の整理
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