高校二年生の生徒がラグビー部の夏季合宿に参加したが、他校との練習試合の後、タックル練習、ランニング練習中に息が上がり苦しそうであったにもかかわらず、監督は直ちに練習を中止させ状態を観察し、水分補給をする等の措置を取るべきところ、練習を続行させ、熱中症により死亡させたことは、監督に過失が有り高校は使用者としての責任があると認定された。裁判所は被告に総額5,200万円余の支払いを命じた。
1.事故はどのようにして起こったか
この私立高校Y1のラグビー部は、平成2年8月1日から12日まで校内合宿、苗場合宿、菅平合宿と夏季合宿を行い、その最終日にK校・T校と半サイドづつの練習試合を行ったが、いずれも負けた。そのため監督Y2は腹を立て、疲労している者にとっては非常に危険である生タックルの練習をさせたうえ、片道65メートルのランニングパスの練習を15往復、約1時間アフター練習を繰り返し行わせた。A君はアキレス腱炎のため十分に走ることができず、苦しそうで息が上がっていた。しかし、監督Y2は続行を命じ、A君は何度か倒れ「先生できません」と訴えたが聞き入れず、「走れないなら部活をやめろ」と叱責し、倒れると襟首を掴み走らせた。倒れて立ち上がれなくなるとヤカンで水をかけたりしたが、意識が朦朧となり、過呼吸の状態となり、舌を巻き出したため車で菅平診療所に搬送した。さらにB病院に移され、必死の治療が行われたが効なく、同日午後2時14分熱中症を原因とする多臓器不全で死亡した。
A君は、平成2年6月ごろからアキレス腱を痛め通院治療を受けていたので、春から夏にかけて他の者より練習量が劣り、鍛練が不十分で、運動時における体力の消耗や疲労は他の部員より激しかったと考えられる。事故当日は朝食後、二つの練習試合、アフター練習の間、水分の補給は全くないままであり、比較的温度の高い気象条件の中で、激しい運動を長時間持続したため、体温が急速に上昇し、脱水症状を呈し、熱中症の状態となり、意識が急速に減退し、血圧が降下して、ついに多臓器不全で死亡したのである。
2.裁判所はこの事故をどのように判断したか
まず裁判所は熱中症について次のように述べている。熱中症はある気象条件以上になると集団的に発生するものであるが、熱中症の原因としては、気温、湿度、風という気象的要因のほか、運動量、運動の種類、休憩の取り方という運動要因、コンディション、疲労の蓄積状況、体力、水分補給等という固体要因などがかかわるものである。
このように熱中症を定義したうえで裁判所は、監督Y2が注意義務を尽くし、ランニングパス練習中のA君の体調の不調を認めた時点で直ちに休ませ、水分を補給させるなどの措置を講じていれば、A君が、熱中症に罹患し、もしくは既に罹患していた熱中症をさらに悪化させ、死亡するに至ることはなかったといえるから、監督Y2の注意義務違反と本件事故との間には、因果関係があるとした。
さらに裁判所は、監督Y2の注意義務違反について次のように判断している。すなわち、本件事故当日の気象要因のほか、練習試合までの運動に加え、アフター練習としてのランニングパス等の激しい運動内容とその量や、ほとんど休憩も取らずアフター練習が課されたなどの運動要因、A君の従前の練習量の不足と他の部員に比し劣る体力や、アフター練習に至る約1時間40分の間、及びこれに引き続くアフター練習中全く水分補給がなされていないなどの同人の固体要因、さらに、A君がアフター練習としてのランニングパスの練習中苦しそうで息が上がっていたことを総合考慮すれば、ラグビー部の監督であるY2としてはランニングパスの練習中A君が体調の不調を見せた時点において、熱中症を予見し得たものというべきであるから、直ちに同人の練習を中止し、全身状態を十分観察したうえ、同人を休ませて水分を補給させるなどの措置を取るべき注意義務があった。したがって、監督Y2は注意義務に違反した過失(民法709条の過失責任)が有ったと認定したのである。
また、裁判所は、財団法人日本ラグビーフットボール協会発行の『ラグビーフットボールにおける安全対策』を証拠として重要視している点を注意すべきである。
次に、ラグビー部の部長Y3、同校の校長Y4の責任について詳細に検討し、何れも過失責任がないと認定した。しかし、Y1高校については、ラグビー部監督Y2の使用者であることから、民法715条1項により、A君が被った損害を補償すべき義務があるとして、A君の父母X1X2に総額約5.200万円余の支払いをすることを命じた。
<次回に続く>
次回は判決の解説と問題点の整理